腐食の構造   森村誠一

角川文庫

専門商社土器屋産業の土器屋正勝社長令息貞彦と、我が国最大の科学技術の総合開発会社である物理化学研究事業者の技師で原子力権威雨村征男は、同じ高校で、二人とも山を愛していた。二人が北アルプスを登山中、貞彦はいたずらで道標の方向を変えてしまう。そのおかげで民有党の有力者名取龍太郎の息子一郎と娘の冬子が遭難してしまう。冬子は土器屋等に助けられるが、一郎は亡くなってしまう。
ところがこれが縁となって貞彦と冬子が結婚することになった。同じ頃、雨村は同じ職場の間島久美子と結婚し、幸せな結婚生活をスタートさせる。しかし久美子は夫の陰に別の女性を見、それがフユコという女性らしいことに気づく。
雨村はウランを従来に比べて短時間で濃縮する技術を開発した。しかし彼はこの技術が軍事力として利用されることを極度に恐れていた。同じ頃大手総合商社信和グループは松尾俊介を通じて雨村の引き抜きを画策し始める。土器屋貞彦は、義父龍太郎の力を借りて中橋二等空佐を女を使って篭絡し、防衛庁に食い込む。すると龍太郎は、新潟県で原子炉建設に反対を唱える雨宮の篭絡を依頼する。今度は貞彦が信和グループ一隅への土器屋産業の食い込みを依頼する。
そういう状況の時に、北アルプス上空での旅客機と自衛隊機の衝突事故、全員が死亡し、乗員名簿には雨村の名があった。しかし収容された遺体には雨村はなかった。久美子は雨村が旅客機に乗っていなかったのではないかと疑問を持ち、調査を開始した。
そのころ、中橋の宿泊しているホテルのT字型廊下で土器屋貞彦が射殺された。ホテルには松尾、土器屋が買収した中橋、その女ゆかり等が宿泊していた。貞彦死後土器屋父子の経営していた専門商社は、信和グループに吸収合併されてしまう。
久美子は、新潟に飛び、宿帳の筆跡、時刻表の書き込み等を頼りに不明になった夫を追いかけ事件のあった夜黒部のホテルに。フユコはやはり冬子であったと知り、衝突事件の日、夫と密会していたことを突き止める。絶望した久美子は、帰途、山中で雨村の資料をねらう松尾らしい男に襲われた。東京の家に戻っても襲われた。幸い二度とも謎の山男大町信一に助けられた。久美子から話しを聞いた大町は、雨村を一緒に探そうと申し出る。さおうした大町に久美子は次第に引かれて行く。
同じ頃警察は冬子の動きを注視し、ついに人目を避けるために予約トリックを使って彼女が松尾と情事を重ねていること、中橋とゆかりの関係等を突き止め、次第に土器屋貞彦殺人事件の真相に迫って行く・・・。
T字型廊下のそばの部屋で貞彦を消音銃で射殺。目撃者が現れたとき、被害者に見せかけた犯人が空砲を撃ちながら倒れるふりをし、そばの部屋へ。入れ替えに死体と銃を廊下に置く。部屋に入った犯人は窓からロープを使って階下に降りたのである。事件は、中橋等が土器屋産業から信和商事に乗り換えようとして起こしたものだった。
冬子によれば、雨村は彼女が忘れられなかった。冬子も結婚を金もうけの手段にしか考えない土器屋のもとでは不幸だった。二人は密かに黒部のホテルで密会し心中の旅に出かけたが、冬子だけが松尾に助けられた。その後、脅されて癌でもう余命幾ばくもない松尾と関係、最後は自分の業の深さに絶望し、二人で北アルプスに心中行に出かけた。それを知って、後を久美子と大町が追う。しかし今度も冬子を取り戻そうとした大町と松尾が争い、二人とも死んでしまう。
大町は旅客機に衝突した自衛隊機のパイロットだった。冬子が本当に愛していたのは、兄の一郎だった。土器屋も、雨村も、大町もすべて一郎の代替えだった、との話を知った時、久美子は「残酷よ、あまりに残酷よ。」とつぶやき、大町の陰を求めて山に入って行く。


「久美子にとっては原子力科学も、企業の利権も、身代わりの恋も、今となるとすべて腐臭を放っている。彼女はただ真実の愛だけが欲しかった。それをさしのべてくれたのが大町であった。」
国家権力と財界の癒着、その結果として起きる事件、山への思い、複雑に絡み合う男と女、そういったものを幅広く捕らえながら、物語はスピーデイに展開して行く。社会派推理小説の典型でしかもエンタテイメント的要素が深く非常に面白い作品に仕上がったいる。推理作家協会賞受賞作品。


・ポストに座っている期間は短いし、一時的なものである。人間はそこを通過するだけだ。だからせめてそこにあるとき、ポストを精いっぱい利用して、将来への跳躍力をつけることだ。(96p)
・(ホテルでの情事)二人が別々にシングルの部屋を予約する。そして密会を行うために第三のダブルの部屋を予約すれば二人の関係はほとんど秘匿出来る(355p)
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