犬神家の一族      横溝正史

角川文庫

信州財界一の巨頭犬神左兵衛が亡くなった。しかしその遺言状に書かれていることは常識からはおよそ離れた内容、このままでは大惨事が起こるのではないかと心配した弁護士が金田一に調査をしてほしいと依頼してきた。ところが出かけると早速依頼人自身が毒殺されてしまうという不気味な幕開け。
左兵衛には松子、竹子、梅子の三姉妹がいる。彼らの子が佐清、佐武と小夜子、そして佐智である。彼らの他関係者に左兵衛の恩人の孫娘珠世がいる。もう一人、召使いに過ぎないが腕力があり、珠世に忠実に使える猿蔵がいる。戦地で負傷したと称し、顔を仮面でおおった佐清の帰郷をまって遺書が開封された。「珠世が3ヶ月以内に佐清、佐武、佐智のうちのいずれかと結婚すれば全財産を相続する。珠世が死去などにより、相続しない場合は佐清、佐武、佐智が1/5ずつ、青沼静馬が2/5…・。」
左兵衛は生涯妻を持たなかった。しかしその性欲のはけ口を満たすために妾を持った。松子、竹子、梅子は彼らの娘だが、左兵衛は全く愛情を寄せていなかった。左兵衛は一度だけ本当の恋をした。ところがその相手青沼菊乃が静馬を出産すると三人は菊乃と静馬をさんざんにいびった。母子は身の危険をおそれ出奔したと言うのである。それを考えての遺言状らしい。しかし三姉妹を中心に呪詛の言葉が飛び交った!
犬神家は那須湖畔に建つ広大な屋敷である。広い庭の茶室正面に歌舞伎「菊畑」に模した菊人形が飾られた。しかし敵役笠原淡海の首がぽろりと落ちた。それは佐武の首だったのである!殺害場所は湖をのぞむ展望台だが、前夜珠世が佐武にあい、幼いときに佐清に何度も直してもらった金の時計を渡している。血でよごれたボートに続いて胴体が湖をずっと流れ出した場所で発見された。
佐清は本物なのか、那須神社に奉納された手型と実際の手型が比較され、同じであるとのご託宣。しかし珠世は何かふにおちぬ様子だ。そして佐清がかいまみせたざくろの様な顔。皆はおそれおののく。
このころ麓の宿に山田三平なる偽名を使い、顔を隠した復員兵らしい男が泊まったとの報があった。そして珠世が佐智に襲われ、眠らされた上、ボートで対岸の農家の空き屋に連れ込まれた。ところがいざ犯そうとすると復員兵。それから少しして猿蔵に珠世の危急をつげる不思議な電話。あわててかけつけると佐智は椅子にしばりつけられ、珠世は気を失っていた。そのまま連れて帰ったが、一同がふたたび駆けつけると琴糸を首に巻き付けられ死亡していた!
三姉妹が過去の菊乃、静馬いじめを白状し、大山神官が実は珠世が左兵衛と恩人の妻の孫であることを発見するが、悲劇は止まらない。今度は氷の湖に佐清が逆さ死体となって発見された。ところが確認のため行われた指紋チェックでは、死者と那須神社のものは似ても似つかなかった。逆さ死体は佐清ではないのか!死体が犬神家の斧・琴・菊の3種の神器に謎らえているところも恐怖を誘う。そして青沼静馬の母菊乃の出現!
佐清が珠世を襲って山に逃げ、捕らえられた。懐からは「すべて私の犯罪。」との告白状。しかし金田一は一笑にふした。そして警部たちあいのもとに真実を明かす。佐清がある人をかばっていること、佐清と静馬が落ち合い、犯罪の事後処理をしていたこと、時に入れ替わっていたこと、佐智は自分で戒めを解き、猿蔵のボートで帰ったが犯人に絞殺され、元の場所に戻された事、珠世の本当に愛している人の事など。そして犯人の指摘……。

大業はないが、本格推理小説の王道を行く作品と思う。まず最初に信州犬神家を中心にシチュエーションが丁寧に紹介され、仮面の佐清、顔を見せぬ復員兵など、謎に満ちた人物が登場し、読者を自然に横溝ワールドに引き込んで行く。そして舞台設定もきらびやかで派手な殺人劇。あのばんから探偵金田一の登場。しかしやむことのないおどろおどろしい殺人劇。いくつもいくつも仕掛けられる謎とトリック。最後に金田一が中心になって皆も参加しながら進められる解決編へと進んで行く。
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