一匹や二匹      仁木悦子

角川文庫

 短編集。彼女の小説には共通のパターンがあるように思う。出来事を最初に設定し、それを逆から見せるという・・・。

蒼ざめた時間
 山部ハツミは平栗と結婚の約束をした。しかし彼女は以前知り合った沢渡と再開し、彼を愛するようになった。というよりも彼の経済的豊かさに憧れを抱いた。
ハツミは捨てられると知って、凶暴になった平栗を殺す相談を沢渡に持ち込んだ。沢渡は恋人と別れて寂しそうな畦上啓介を犯人に仕立てて殺すことにした。
 計画に従い、ハツミは初対面の啓介を、ヴァレンタインチョコレートにかこつけて、自宅マンションに誘い睡眠薬で眠らせる。しかし沢渡の殺人目標は飽きがきたハツミであった。 結果、啓介が眼を覚ましたとき、脇には包丁でさされたハツミの死体があった。
 これを小説ではハツミ殺害犯にしたてられる事を恐れた啓介の立場で、その恋人純子をからませながら書く。

縞模様のある手紙
入院中の伊豆沢武平の子、透は父が2号の娘を認知する動きを見せたため、相続上不利になると、殺害を計画した。
そんな時、パリで放埒な生活にあけくれ、寸借詐欺を繰り返して信用を失い、日本に逃げ帰ってきた井岡辰男がいた。かれは交通事故を起こし、パリで知り合った良方八郎の名で入院していた。
透は後輩の井岡に武平殺しを依頼する。井岡は以前何回か寝たことのある長海ゆかりを共犯に選ぶ。ゆかりがかつらやサングラスで変装して武平に近ずき、酸素を止める、透とゆかりの連絡を断ち切るため、透が車椅子の井岡を坂上から突き落とす、真相を知って強請ってきた付き添い婦をゆかりがレンタカーで誘い、睡眠薬で眠らせた後、溜め池に突き落とすなどによりいずれも事故や自殺に見せ掛けて殺害する。
ゆかりは井岡がパリにいるように見せ掛けようと、フランス語の手紙代筆を砂村絹子に依頼するが、物語は彼女とその夫の立場から書かれている。
事件は絹子が見舞いにいった男の隣のベッドにいた男が良方の名ながら昔の知り合い井岡に似ていたことからほぐれて行く。

坂道の子
伸子は金融業者菱谷の先妻の子だったが、夫の横暴や女ぐせに苦しめられた母の復讐と愛人辻谷との結婚のために実の息子の誠弥誘拐により身の代金を得ようと計画。
辻谷は誠弥を知らなかったため、伸子に目印にペンダントを首から掛けさせておくが、たまたま一緒にいた相川雄一がおなじペンダントを掛けていたため、こちらを誘拐してしまう
物語は坂道の下でなかまはずれになり、一人寂しそうにしていた雄一にガキ大将の誠弥と同じペンダントを与えた大町杉子の目をとおして書かれている。
自分の子と間違えられて誘拐されたとはいえ、関係ないことだから、身の代金は一銭も払えないという菱谷の論理が興味深い。