地獄の道化師・一寸法師          江戸川 乱歩

春陽文庫
地獄の道化師

 踏切でちょっとした事故があって、オープン・カーがえんこ、積み荷が落ちたが、それが石膏の女人像、しかも割れ目から実際の女の死体がのぞいていた。運転手は車を放り出して消えてしまった。絵の送り主は綿貫創人なる怪彫刻家と突き止められたが、彼は名をかたられただけのようだった。翌朝野上あい子といううら若い女性が出頭し「もしや、私の姉ではないか。姉は最近道化師の指人形を送られ、ひどくおびえていたが、三日ほど前、家を出てからいなくなっている。」死体をあらためると、右腕に小刀で切った傷跡があり、姉のみや子にちがいない、と泣き崩れた。警察は明智小五郎に捜査の協力を依頼した。そしてあい子は帰り道、道化の衣装をつけたチンドン屋に驚かされる。
 新聞は犯人を「地獄の道化師」と呼び、センセーショナルにかき立てた。白井清一はみや子のいいなづけだったが、あい子を好きになっている様子、その白井が事件の見舞いに来る。白井はあい子を守っていたが、明智の使いと称する男に呼び出され、寂しい崖の上に連れて行かれてしまった。さらに白井と親しかった歌手の相沢麗子が公演中ナイフを投げつけられ、危機一髪の目にあった。続いて相沢麗子には脅迫状。
 警察や明智が警戒する中、あたりが突然明るくなり、道化師の顔が現れた。しかし明智小五郎の機転が勝ち、マグネシウムと人形で舞台を作った浮浪少年を捕まえた。しかし、道化の衣装をつけたチンドン屋に頼まれただけという。明智の弟子の小林少年が浮浪少年の後をつけるととある屋敷に入り、あのチンドン屋と会うではないか。早速警察と明智が屋敷を取り囲み、踏み込むが誰もいない。二階でうめき声がするので、駆けつけると薬品で大けがをした女が一人。彼女は狂っているようで、麗子が同情し、相沢家に引き取られることになった。そしてその夜、相沢麗子の布団に注射器を握った腕が伸びる。麗子危機一髪!
 事件が終わって明智が解説する。「いいなづけから嫌われた女は、いいなづけに縁の深い女を取り除こうとした。そのために自分自身を抹殺する必要があった。似た女性の墓を暴いて石膏でかため、露見させて自分を殺された様に見せかけた。標的はあい子、相沢麗子・・・目的達成のためには自分の顔を破壊することも厭わなかった。」
 動機がどうも、という気もするがなかなかのエンタテイメント小説。特にショッキングな出だしは感心・・・クロフツの「樽」を彷彿とさせた。自分を抹殺するために死体を利用というテクニックも面白い。

一寸法師

 ある夜、酔った小林紋三は、一寸法師のような小さな男が、人間の腕を落とす所を見掛けて、追跡するが、近くの養源寺で見失う。次に山野夫人から令嬢三千子が行方不明になったと相談され、明智小五郎を紹介する。しかし、百貨店のお梅人形につけられた人間の腕が発見され、それが三千子のものと推定される。三千子に似た小間使いの小松が失踪する。もう一方の腕が、山野家に送られる。
 紋三は、山野夫人が一寸法師に官吏の住宅に連れ込まれるのを目撃するが、見失う。明智も女中のお雪を使って同じ情報を得ており、さらに三千子誘拐のために使われたらしい壊れた石膏像、多くの艶書などを示し、山野夫人自身を疑う。
 そして山野家の出火。放火をした一寸法師は人形師の家に逃げ込むが、つけていた紋三は、そこで見失う。
 実は養源寺、官吏の住宅、人形師の家が地下で繋がっていることに気ずいた明智は、一寸法師をおいつめ、捕らえると、養源寺の和尚だった。山野夫人は紋三に娘を殺した、と叫ぶが、夫人を愛してしまった紋三は一緒に逃げようとする。この時になって夫人は実はふしだらな娘に怒った夫が命じて、三千子を殺させたと言う。しかし二人は明智と行動を共にする平田に見つかってしまう。
 その夜、人形師安川国松の家。明智は、三千子は被害者ではない、運転手の蕗屋を巡って恋敵の小松を殺した犯人なのだ、三千子失踪と小松失踪の間、三千子は小松になりすましていた、と喝破する。死体処置は大人たちの共同作業である、と説明、大きなキューピー人形を壊すと中から小松の変わり果てた死体が出てくる。悄然と三千子が現れる。しかしいまわの際に、一寸法師が「殺したのは私」と白状し、明智も渋々認めて大団円になる。
 乱歩得意の入れ代わり、切り刻んだ死体の暴露、一寸法師のような奇形の登場、地下室のトンネルと道具だてが揃い、面白い。 昭和初期の作品だが、後のエログロ趣味の原形になった作品ではないかと思った。

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