人生の阿呆    木々高太郎

講談社現代推理小説体系

比良カシウで成功した比良良三の息子良吉はおばあさん子であった。
しかし女中の敏やに手を出したらしいと両親に疑われ、ほとぼりをさますためシベリア鉄道でヨーロッパに向かう。
出発前後に比良カシウを食べて、3人が不振の死を次々ととげる。
調べてみると入っているはずのないストリキニーネによる中毒だった。
捜査を進めると無産党員で良吉に少なからぬ影響を与え、比良カシウのストライキに際しても活躍した高岡弁護士の射殺死体が比良家の物置から発見され、その体内から怪しげな暗号文書が見つかる。
ピストルは工員平田の一人が持っていたが高岡から預かったと証言する。ピストルの弾の貫通後から犯人の身長、犯行方法が議論されるが決まらない。
良吉が疑われ、帰国命令が出されるが良吉はモスコウで昔の恋人達子とひとときを楽しんでいた。
しかしそれも達子の自殺で幕を遂げ、強制帰国させられ、逮捕される。
良吉犯人説が壁にぶち当たった頃、無産党員の動きを追っていた警察がついに真犯人を捕らえる。比良カシウにストリキニーネ入りを混ぜたのは比良家の次女との結婚が破談になり会社を恨んでいた日野が無産党員平田、高岡等と組んで起こした犯行、高岡殺しは息子の左翼かぶれを断ち切ろうとしたおばあさんの犯行であった。
人生の阿呆とは「自分の実践によって発見したもの、ただ他人の命令によってのみ動いていた」良吉をさし、良吉の自立のためにおばあさん、達子の二人が犠牲になったのだった。
ロシア文字や楽譜を使った暗号、ピストル発射角度からの犯人の推定、変装トリックなども面白いが焦点が良吉の自立に当てられているところが普通の推理小説とことなる。
また良吉のモスコウ行きも興味深く描かれている。