角川文庫
新聞記者冬木は、犬に襲われそうになった勉君を助けたことから、近所の美貌の主婦、朝岡美那子と愛人関係になった。彼女は「主人と私の間には、心のふれあいって言うのか、感動がないんです。」「あなたなら、私に欠けているものを埋めて下さるかも知れない」などと言っていた。その後、冬木は、ヴェトナムに派遣されたが、ゲリラに襲われ、日本の新聞には殺害されたらしい、との情報が流れた。九死に一生を得て帰国したが、朝岡から「6月3日頃から、妻が行方不明で、警察に捜索願を出している。」と知らされた。
気にかけていたが、6月20日にフランス出張。そのとき偶然札幌便に乗る美那子をちらりと見かけた。あわてて札幌支局に電話、降り口で捕まえてくれるよう依頼するが、捕まらず、美那子は消えてしまった。
フランスから帰ってテレビのワイドショウで福岡で丹野という鋼材会社の独身社長が行方不明になっていると聞き、胸騒ぎを覚える。福岡に飛び、丹野の妹の怜子と共に捜すと、丹野が山奥のアパートの一室で絞殺されていた。警察は取引先を疑うがはっきりしない。
冬木は、スチュワーデスたちの証言から、美那子は札幌に行くと見せ掛けて実は福岡に行ったのではないかと考える。美那子が福岡で短期間バー勤めをした後、幼なじみの丹野に出会い、一時保護されていたらしい事を知る。一方警察は、野心家で知られる丹野の部下倉橋と秘書で愛人の高野の犯行ではないか、と考える。しかしその倉橋が関門トンネルで列車から落ちて死んでしまった。自殺か、他殺か。
冬木は、美那子の同級生でスチュワーデスをやっている菊畑敏江を発見。彼女の口から、あの札幌便のトリックを知ると共に、彼女の軌跡を知る。美那子は菊畑の元にあらわれた時、「愛人の子を宿している。亭主に離婚を頼んでいるが聞いてくれない。」と言っていたという。それから能登を旅行した後、戻ってきて20日に故郷の福岡に向けて発ったそうだ。しかし丹野が殺されたらしい7月10日以降行方をくらましている。
「愛人の子」と聞いて冬木はぎょっとする。美那子は、ヴェトナムで自分が死んだと思ったに違いない。朝岡に、離婚を拒否されている。一人で子供を産むことを決心したものの、故郷の福岡でも頼るべき人がいなくなったとしたら・・・・。
昭和45年の年間家出人数3939人、蒸発という現代人が描くほのかな夢に焦点をあて、それがどのような経過で起こり、どういう結末を迎えるかを叙情豊かに描いているところが素晴らしい。話の展開のさせかた、伏線のはり型なども素晴らしいが、最後の犯人の告白「膣のない女と同様母性愛が欠落した女性がいる」というくだりは、男の一方的な見方だな、と感じた。
「航空機旅客の蒸発トリック」=スチュワーデスと共謀し、幼児の搭乗を利用して、その便に乗ったように見せるもの
「現場偽装と話中の電話」=死体のある部屋に届く牛乳瓶や新聞を新しくしておき、死亡時刻推定を狂わせるもの、および「同じ電話にまず一人がかけ、そのコールサインのなっている最中に、もう一人がかけた場合、後からでた電話に対しては、話し中のサインのみが出る」ことを利用してアリバイを作るもの
「列車ダイヤ」=時刻表利用。
の三つのトリックが無理なく使われている。
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