角川文庫
鬼貫警部もので、最初に奇妙な様相の事件が続き、後半、容疑者が確定してからはしつこいまでのアリバイくずしが続く。
梅里昭子は、栃木県烏山市で御室流の生け花を教えていたが、むかし助けた女性に関する美談が報道された。
翌日別の記者が訪ねてきたが、後で調べると記者も新聞社も存在しないものだった。
犬山市で山辺工房を営む鈴木武造のもとに、新作こけしを売り込みに来た男がいた。
一月たって、男からの連絡で出かけた鈴木は、翌日、ナイフで胸を刺されて死んで発見された。
同じ頃梅里昭子が、製薬会社から贈られてきた新薬の試供品(87p)を飲み、青酸カリ中毒で死んだ。
昔、鈴木武造は、久道肇といい、昔金融業者を殺して金を奪い犯人と考えられたが、昭子が事件当時一緒にいたと証言したため、釈放され、別の男、柏木新吾が、逮捕され、獄中死した。
しかし、実は肇と昭子は、共に養子に出された兄妹、証言は口裏をあわせたインチキとわかり、柏木新吾の娘香織が、亭主の克己をさそって復讐にでたものらしい。
しかし評論家の香織は、事件当日、
「講演のため、準急”ながら”に乗って豊橋に行った。 夫が見送りに来た時に東京駅で撮った写真のネガがある。」
と二人のアリバイを主張。
克己は前日、それまでのばしていた髭を切り、”ながら”は翌日から運休になった。
従って前日のパーテイ写真の後に映っている、ひげのない克己は、当日撮ったものであることは、間違いないようだ。
写真のトリック追求のほか、なぜ新幹線があるのに”ながら”を使ったのかなどという問題をあくまで論理的につっこんで行くところが、パズルを思わせ面白い。(188p)
・最初の助けた女性はいん石によって倒れた、という記述は珍しい。
・紙漉という性の男が出てくるが珍しい。(94p)
・白内障と水晶体移植の話し(156p)
・レンズにフードをかぶせ、12枚のからどりをしておく。だから細君の姿は13齣目に写ったことになる。(193p)・・・「影の告発」にも同じ様なトリックがあった。
・壁に貼られた写真を写したとしたら・・・・。(200p)・・・・これは案外分かるものらしい。
(畦上道雄 推理小説を科学する 講談社)
(1)アリバイとなる撮影フィルムを二本用意し、その現像・焼き付けを豊橋駅前の2個所の写真屋に頼んでいるが不自然。
(2)香織と克己が犯人という積極的証拠がない。
(3)遠景をぼかすためにレンズを絞って露出時間を伸ばしたのは間違い。 などとしている。
(1)の2本用意したところ、および(3)はそのとおりと思う。豊橋駅前で頼んだ件については作者が理由を述べているので、非難するには当たらないと思う。(2)はそのとおりだが、積極的証拠を見つけにくいためか、作者は犯人夫婦に自殺させてしまっている。 別に私としては、克己が妻の尻にしかれているとはいえ、殺人の主犯を買って出ると言うのは無理があるように思う。