カフカズに星墜ちて    保田良雄

文春文庫

発端はジュネーブの日本総領事館から外務省電信科に入った奇妙な内容のテレックス。
「ジュネーブの時計メーカーに大日本帝国造幣局1944年」の刻印の入ったプラチナの延べ板を西洋人が売りに来たと言うものである。
調査を命じられた江木は大阪造幣局、精錬に立ち会った広島の元海軍大佐等を調査するうちに、1944年B29の影におびえた日本が新型戦闘機をドイツからの技術導入によって開発しようとしていた。
見返りに先方で必要とされたプラチナを送ろうとして、陸軍試作軍用機キー74によりベルリン飛行を試みたが途中で行方不明になったこと分かった。
一方「1944年のルドルフ」というアルメニア人中心と目されるテログループがフィンランド国境都市セベロモルスクでの爆発事件、アエロフロート爆破事件、トプカピ宮殿宝物室爆発事件、ダマスカス陸軍火薬庫爆発事件を次々に引き起こす。これを追ってCIA、KGB、イギリスのSISなどの組織がいっせいに動き出す。
「1944年のルドルフ」ことネフィル・メリックこそテロ活動資金源獲得のためにプラチナを売った男、ジェイ・ユー・ハートだと突き止めた江木は留学生ソフィアと共にこれらプロの組織に対抗する形で彼を追って、トルコカッパドキアまで追いつめるがメリックは殺されてしまう。
そしてキー74墜落地点を追って江木等はソ連とイラクの国境にある小さな村に潜入、ついにその残骸の残る凍った滝に到着、花を添えた後、残ったプラチナをかかえて黒海をボートで渡り脱出する。

アジアとヨーロッパを駆けめぐる大冒険談という趣、暗号解き位であまり推理小説としての要素は備えていないが手に汗にぎり、ロマンを感じさせる面白さがある。
飛行機開発に関するプロフェッショナルな知識が披瀝されているところも興味深い。

・航空機のエンジンは飛行高度をあげると性能ががた落ちになる。上空では空気が薄くなり、ガソリンの燃焼に支障をきたすからである。(44p)
・字を拾い読みさせる暗号「紺碧包む頭上に敵機は見えぬ。塔頭城郭皆我にひれ伏し、黒鯨海原を制するごとし。正経の由来今何処にありや。伯父林先生に宜しく。実家にも行かれたら父上に宜敷く。」(116p)
・赤鼻のトナカイの歌のかしら文字を取ったアナグラム(134p)
・犬の避妊薬のスプレーを牡犬の局部にかけておけば、絶対に近寄らない、牡犬自身も嫌がってきりきり舞いをする、その効果は東京の下宿で実験済みであった。(262p)

* 犬の避妊薬スプレー
* アナグラム