新潮文庫
昭和22年9月北海道岩幌町で質屋夫婦が惨殺され、放火され、大火となった。
函館暑の弓坂警部等が捜査した結果、そのころ、網走刑務所を出所した二人と犬飼多吉と名乗る男の犯行らしいことが分かった。
同じ頃層雲丸が津軽海峡で遭難したがなぜか引き取り手のない死者が二人いた。
死体再検査の結果、この二人は刑務所から逃げた二人と分かった。犬飼多吉は船を盗み、仏ヶ浦近くについた。
そして大湊の女郎屋、花屋の杉戸八重に救われ、姿を消す。一方、八重も犬飼の与えた金で借金を払い東京で働くことになった。
事件は迷宮入りになったように見えた。
ところが昭和32年、京都で食品会社社長の樽見京一郎なる男が受刑者更正のために多額の寄付をして新聞に載った。
八重は、今は亀戸で女妓をやっていたが、彼が犬飼であることをすぐに見ぬく。大恩人に一目あいたく樽見の住む、舞鶴に向かう。
しかし旧悪の露見をおそれた樽見は彼女を青酸カリで殺し、書生の池田と心中したように見せかけようとした。
二つの死体は舞鶴沖の島に流れ着いた。しかし、八重の死体のポケットからは樽見について書かれた新聞記事の切り抜きがでてきたし、池田と八重を結ぶ接点が見つからなかったことから、捜査本部は樽見に的を絞る。
舞鶴東署の味坂警部と今は引退した弓坂の執念の捜査が進む。
樽見の過去が徹底的に洗われ、ついに八重のこおりの中からでてきた岩幌火災の前日の北海道新聞などが証拠となって樽見は逮捕される。
この推理小説は推理小説と一般の小説の中間を行くような感じだ。
最初から犯人が分かっているのだから謎解きの面白さはない。
しかし地道な捜査の状況の度に過去の経緯が繰り返し説明され、それを通じて描かれる人間模様が心を打つ。
そしてそこに描かれる樽見京一郎、杉戸八重、その周囲の人々、弓坂、味村両警部等の人物像が生き生きとしており、情景描写とあわせて、壮大な叙事詩、ないしは絵を感じさせる。
層雲丸の事故に紛れて、二つの死体を遭難者に見せかけ、処理しようとするところ、海流の流れを利用して殺人現場をごまかす話などがトリックとしては面白い。