集英社文庫
切り裂きジャック事件が起きた1888年のロンドンは、乞食、浮浪者、犯罪者などがイーストエンドをうろつき、悪事を働いており、物騒だった。その後ロンドンは変わったが、1988年、ベルリンの塀近くにあるクロイツベルグは似たような状況だった。
1988年、ベルリン。22歳のモニカ・フォンフェルトンは風紀課に配属になり、娼婦たちの取り締まりをするようになった。彼女は恋人から200万円もするダイヤをもらい大事にしなければと思っている。一方女に捨てられたおれは、娼婦街に足を踏み入れ、リンチにあっている娼婦をおかしてうさをはらす。そんな中でわずか二日の間に5人の娼婦が喉笛を掻き切り、腹を裂き、内臓を手ずかみで引き出されるという事件が起きた。しかも最後にはモニカまでが襲われて重傷を負った。
1888年のロンドンの事件は、これに酷似していた。短期間の間に5人の娼婦が同じようにして惨殺された。現場にレザーのエプロンが落ちていたことから、嫌われ者の靴屋が逮捕されたが、アリバイがあった。最後には切り裂きジャックと称する犯人から当局をおちょくる手紙までが届き、コメデーっぽくなってきたが、解決することはなかった。
ベルリンでは殺された娼婦の中に青いインクをかけられた者がいたことから、娼婦を憎んでいるレン・ホルツアーなる男が逮捕された。重態だったモニカがやっと回復し自宅に戻るが片足が不自由になってしまった。ところがホルツアーは犯人ではない、とする過激な投書が届き、警察は大慌て。とらえるとクリーン・ミステリと名乗り、「私はロンドンの切り裂きジャック事件を長年研究してきた。今度の事件はそれと酷似している。犯人は分かっている。霊安室にある5人の女性の遺体を埋葬する準備をしなさい。」
彼の解釈によるとロンドンの切り裂きジャック事件の顛末はこうだ。洋服の仕立てをしていたマリア・コロナーという美しい女性が、ユダヤ系のロバートという非常に良い男に見初められ、家に伝わる「エジプトの星」なるダイヤをもらった。ところが娼婦の依頼で縫い上げたものを持っていったところ、トラブルになりねじ伏せられてしまった。しかも娼婦の一人が「エジプトの星」を飲み込んでしまった。彼女はその宝石を求めて、居合わせた5人の娼婦を次々に襲い、腹を割き、宝石を取り戻そうとした、と言うのだ。
今度の事件も同じ、女性が飲み込まれた宝石を取り返そうとしている!!棺桶を5個並べて、刑事とクローゼットの中に潜み、じっと待っていると夜も更ける頃・・・。
ロンドンの切り裂きジャック事件をそれだけ伝え、犯人が分からないではただおぞましいだけでつまらないだろう。同じ様な事件が100年後退廃したベルリンで起こる。捜査は難航するが「ロンドンの事件を私はこう解釈する。今度の事件も同じだ。」と主張する男が現れ、罠を張ると案の定・・・・、という書き方にすると話が非常に膨らみがでて面白くなる。それを二つの事件を交互に展開して見せ、読者を興奮させ興味を持たせるように持って行くと後書き深町真理子の言う「夢のあるミステリー」になる。その辺がこの作者の非凡なところだと感心する。うまい!もっとも、作品のアイデアはコナン・ドイルの「六つのナポレオン」と同じだな、と感じた。
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