双葉文庫
英国人の父と日本人の母のあいだに生まれた混血女性ローズ・ギルモアは13年ぶりに
日本の地を踏み、中垣の助けをえて父と母のルーツを探ろうとした。母は、金沢の老舗
菓子や孔雀道の長女だったが、出奔し、ギルモアと結婚、5歳の時に焼死している。一
方父サイモン・ギルモアは、マーシャル事件に連座し、数年前になくなっている。
調査を開始してまもなく、同時に帰国した隣室のクララ・ルッサン夫人が殺された。元
憲兵でマーシャル事件を調べていた岸尾は、終戦直後にピストルで殺されていた。
母は激しい性格だった。妹が気に入っていた今村を奪って出奔したのだったが、今村が
挫折し、生活が苦しく、彼を助けるためにサイモンと結婚した。サイモンは夫をそその
かし、二重スパイに仕立て上げた。それを知ったサイモンの愛人クララと岸尾は、サイ
モンを強請った。サイモンは岸尾を殺した。クララは、母を殺そうと自宅に放火した。
この機会を利用し、母は自分が死んだと見せかけ、別の女性になりすまし、出奔、英国
に渡った。そしてランボール夫人となってローズを追って帰国したのだった。
広島の病院で長く病んでいた今村が死んだ。中垣とローズもうまく行きそうだ。すべて
をローズに告白した母は薬を仰ぎ、自己の波乱に満ちた人生のピリオドをうつ。
いつも感心するのだけれど、話しのもって行き方がうまい、それに肩を張らないたんた
んとした語り口も魅力がある。知的な書き方だ。
それに加え、この書では西欧文化と日本の文化の比較論のようなものも随所に現れてい
る。
・西欧文明の終焉の地を、あたしはヒロシマだと考えているのよ。西欧文明のシンボル
だった科学の発達が、とうとうその文明をヒロシマで葬ったわけよ。自分で自分の骨を、
あのキノコ雲の下に埋めてしまったわ。(352p)
・人間というのは、難破船みたいなものですね。・・・・自分の意志などちっぽけなも
のです。波が高けりゃひっくり返る。・・・人と人との出会いも偶然ですよ。だけど、
愛してしまったら、もうどうすることもできない。(321p)
・化して春泥と作り、更に花を護る。(自分が肥料となって・・・)(310p)
・ヨーロッパでは・・・・人間のわざを、その煙突は見せびらかしている。日本の家屋
は、もちろんどこかに煙突はあるだろうが、それを目立たぬように取り付けられている
のだ。・・・あくまで人間の営みを隠そうとする(216p)
・死体発見の描写(84p)
・儒教は仁を統治者の必ず持つべき徳と規制し、もし仁を持たぬ天子があれば、人民は
彼に服従する義務がない。打倒してもかまわない。・・・そう教えている。この革命容
認の思想は、日本の支配階級の利益に反したので、そのような物騒な仁は取り入れない
ことになった。(181P)