黒い画集   松本 清張

新潮文庫

現実にありそうな色と欲に絡んだ短編ないし中編7つが治められている。トリックや殺人の方法として面白そうなものを紹介する。

坂道の家
節約家の化粧品屋の寺島吉太郎は、ふと知り合ったキャバレー女給杉田りえ子にまいってしまう。寺島は商売に熱が入らなくなる一方、杉田のために預金を惜しげ無く使い、ついに杉田を身請し、高台の1件家にすまわせる。やがて金が底を着き、寺島は自分の店を飛び出し、杉田の家に転がり込むが、もともと商売で付き合っただけで、すきであったわけではなく、他に恋人もいた杉田との仲はぎすぎすした物になって行く。

ついに寺島は硫酸の小瓶を見せて「逃げたらこれを掛ける。」と脅したり、心臓の弱い杉田に買い物に行かせ、坂道を戻った後。急に風呂に入ることを要求したりする。そんな頃、寺島が風呂で心臓麻痺により死ぬ。最初は事故死と思われたが実は杉田が恋人と共謀し、睡眠薬入りの酒を飲また上、氷で冷やした風呂に無理やりつけたもので、僅かに残っていたおがくずから足がついた。


行方不明だった岡山の神官、梅田安太郎は多摩川の堤で両手両足を縛られ、紐で首を締められ殺されていた。他殺として追及したが
1 死体に背部に指圧により消褪する死斑があった事から、死体が死後にあおむけからうつぶせに変えられた。
2 首に巻いた紐がきれいに4つ揃えて巻いてある、後ろにのびた髪の毛をよけてその下を巻いてあるなどから、当人がいたくないようにとの心使いが見られる。
3 死者に多額の保険金が掛けられていた。
などから、家族による殺人との疑いが強まる。事実は事業に失敗した梅田が家族に助けられて自殺し、あわせて家族のために保険金を取ろうとしたものだった。
しかし保険会社のいう「うちの社の場合、契約に加入して1年後なら、自殺でも貰えたのですよ。」はどこまでほんとうなにだろうか
  
保険金の支払いについて保険会社の考え方D社
保険金を支払わない場合
1 責任開始期の属する日から起算して1年以内の自殺
2 保険契約者または死亡保険金受取人の故意
3 戦争その他の変乱
2についてたとえば夫が保険契約者でかつ被保険者、妻が保険金受取人の場合で、たとえばどちらでもない息子が父を殺し、相続による財産の通じて保険金を受け取ることをねらったような場合でも支払われない。
行方不明については
「被保険者が生死不明の場合でも、会社が死亡したと認めたときは、死亡保険金を支払います。」
 とあり、会社が認める基準は7年だそうである。

凶器
九州の田舎で、田圃に六右衛門の撲殺死体が見つかる
都会からにきて、かまぎ(かます?)を作って細々と生計を立てていた未亡人島子がしつこく言い寄る六右衛門を殺したのではないかと疑われる。しかし凶器がと特定出来ず迷宮入りとなる。数年後刑事はかき餅を食べようとしたとき、凶器が海鼠餅で、それは島子がぜんざいに入れて振る舞ってくれたもの胃だったことに気が着く。

このような話は他にも幾つかある。ロアルトダールの「おとなしい凶器」では冷凍した羊肉のかたまり、山村美沙の「ヘアデザイナー殺人事件」ではサランラップの棒であった。
また島田一男の「社会部記者」では砂袋を使っていた。
なお芹沢常行の「完全犯罪と闘う」によれば、彼が検死をした約3000の変死体のうち圧倒的に多いのは挫裂傷で1000体あまりという。

寒流
沖野一郎は40を過ぎて始めて知った女前川奈美に溺れるが、上司の桑山常務に取られてしまう。そのうえ宇都宮支店に飛ばされ、妻にも逃げられ、出世の道を閉ざされてしまう。結局、桑山と同じ型の、あらかじめ盗難届けをだしておいたキャデラックを情事の現場においておき、桑山が奈美と誤ってその車に乗り込んだ所を、刑事に見つけさせる。