黒い白鳥      鮎川哲也

双葉文庫

 東和紡績は、西ノ幡豪輔のワンマン会社だったが、労働争議で揺れていた。そんなおり社長の死体が、久喜駅近くで見つかる。上野の陸橋の上で放置された自動車と死体を落としたらしい血の後が見つかったことから、社長は、何者かに陸橋から突き落とされ、列車の屋根の上に乗り久喜まで行き、振り落とされたと考えられた。
 常務の娘敦子と恋仲にある労働組合の副委員長鳴海、社長が凝っていた新興宗教沙満教の知多文平、さらに秘書の灰原等が疑われるが、いずれも確固としたアリバイは崩しようもない。
 そして社長に変装した元植木職人小幡の死体発見、知多文平の惨殺・・・・。、
 しかし鬼貫刑事は、社長の貸金庫の中にあった半分にちぎれた女性の写真から京都の飛田遊郭で働いていた女を割り出す。そしてチッキ送り先からその女の身元が九州の田舎の出身とわかり、写真を照合した結果、副社長夫人文江と分かる。
文江は、社長に飛田遊郭にいたことを種に強請られていた。そこで殺害した後、大宮の陸橋から突き落とし、上野で落とされた様に見せかけたものだった。小幡は口封じ、知多は事実を知って強請ってきたため、やむを得ず殺した・・・・。

 鬼貫等のこれでもかと言わんばかりのしつこい捜査が魅力。そしてもうだめかと思った頃一つの事実が判明し、捜査の歯車が進む・・・・そこが醍醐味だ。
 殺害現場の偽装をはじめ信越線と上越線を混同させるテクニック、列車の屋根の上についた血痕によって列車の進行方向を推定するテクニックが面白い

・彼の見解によれば、人間から勉強の意欲を奪う者は、娯楽であり異性であった。(32p)
・娼婦のテクニックを堅気の人は軽蔑するけれど、男性を扱う場合、とても役に立つものよ。知多を最後まで操ることが出来たのもそのおかげだし、主人との仲が円満に行ったのも、やはりそのせいだと思うわ。・・・女の人は結婚する前に、そうした方法を出来たら勉強しておくといいんじゃないかしら。・・・・・夫婦の間に娼婦的テクニックが必要だって事、ワイニンゲルも言ってたはずだわ。(467p)