講談社文庫
曾祖父誠太郎は狂死、函館大火で祖父光太郎が焼死、その叔母夫妻が子供もろとも広島で原爆死、父母と叔父が洞爺丸事件で死亡という呪われた氷沼家。
残されたのは蒼司と紅司兄妹、オカマバーで働く従兄の藍司、氷沼宅に寄宿するようになった医者で叔父の橙二郎、それに原爆で死んだはずの黄司、それに不動産屋八田皓司等が主人公。蒼司は、悲しみに打ち沈み、紅司と橙二郎は憎みあい、曾祖父の代に宝石販売でのし上がった氷沼家は経済的に追いつめられていた。
まず完全な密室状態の風呂場で、紅司が死体で発見されたが、背中に鞭痕がついていた。警察は心筋梗塞とするが、怪しいところも多く、ミステリー好きの光田亜利夫、奈々村久生、その婚約者牟礼田俊夫、氷沼家の昔からの友人、藤木田が挑戦する。(1)死体が発見されたとき、犯人は洗濯機の中に隠れていた(2)死んだはずの黄司が現れ、犯人で窓と外の鉄格子の間に隠れていた(3)紅司が別の男を殺し紅司が殺されたふりをし、後で死体を入れ替えた(4)悪友鴻巣玄次と紅司が風呂場で密会、前者が後者を油を注射して殺した。などの案が出されるが決め手がない。
次に藤木田等の提案で「カナリア殺人事件」の向こうをはって、麻雀をやりながら犯人を推定しようとする。ところが途中で退席した橙二郎が、二階の密閉された書斎でガス中毒で死ぬ。
さらに謎の人物鴻巣玄次が、不動産屋八田皓司の弟であることが判明するが、千住のアパートで八田と争った後、毒入りウイスキーを飲んでしぬ。他殺か、自殺か。そして最後は黄司の犯行と思われる黄色く化粧された部屋での八田と藍司の人間振り子事件と続く。
事件の犯人は黄司説、藍司説等にゆれた後、追いつめられて八田の名刺を持った秀才の蒼司が、紅司は事故死だが、死体を風呂場に運び込み、掛け金と洗濯機の心棒を結んで密室を構成した、橙二郎の場合は第一発見者になり、密室を装って見せたと告白する。
原稿用紙千枚以上の力作であるが、登場人物が何を考えているのか良く分からない、犯行の動機に自然なものが感じられない、謎に次ぐ謎で読者を考えさせるものの、その謎解き解説がすべて尽くされているわけではない、などの問題点を感じる。
しかし出口祐弘氏の解説によれば、
「ゲームとしての完璧性、純粋性よりも、脱ゲームの混濁と不完全とを選んだ。つまり彼はアンチミステリーを書いたのである。」
と言うことであるから、その考えにそえばこれでいいのかも知れない。
作者が詩人であり、子供の頃、あの奇妙な推理小説「ドグラマグラ」の愛読者であったと知り、なるほどと思ったりする。
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