角川文庫
初期の短編集。多くが京都の祭りに関連付けられていて、スターなども登場し、非常に華やかだ。物語としてうまく出来ている「くらやみ祭りに人が死ぬ」、トリック要素が盛りだくさんの「なぜあなたは京都で死ぬの」が良いように感じた。
華やかな殺意
京都城南宮。曲水の宴は、曲水を杯が流れてくる間に一首読むという趣向。今日は大河内教授を先頭にタレント、有名人が加わり七人でいどむ。ところが杯を干した女性タレントが急に苦しみだし、絶命。青酸カリ中毒だった。犯人はどうやって毒を入れ、どうやって選択的に被害者に飲ませたのだろう。探偵は推理作家矢村麻沙子である。桜の花びらにしみこませ、杯に入れたというのだが、青酸カリの致死量は0.2g、そんなにしみこませられるかなあ。
祇園祭殺人事件
七月、矢村麻沙子は、人気俳優の大杉と共に祇園祭の長刀鉾を見ていた。彼は長男春太郎(九歳)が長刀鉾の稚児に選ばれ、得意のはずなのだが、何か浮かぬ顔をしている。ところが春太郎の乗る鉾が辻廻しをする時に横転、そばにいた男が潰され、1000万円があたりに散らばった。実は春太郎が誘拐されて、鉾の上にいたのは弟の秋次郎だった。ころがった男は身代金受け渡しの使いの男。矢村麻沙子は中途半端な請求金額、誘拐の仕方から考えて、大杉に対する嫌がらせが主体で金額は従、成功しなかった訳だから、犯人はもう一度要求してくると考える。
くらやみ祭りに人が死ぬ
六月五日、くらやみ祭りともよばれる宇治の県神社の祭りの日。御神体の梵天が、大勢の若者に担がれて宇治神社から反対側の県神社まで運ばれる。長い間自分をいびってきた姑。加奈子はあらかじめバケツに用意しておいた宇治川の水に姑の首を突っ込み殺害した。アリバイ工作をした後、宇治川に目撃者の男と共に放り込んだ。しかし、刑事は、死体の腐敗度が空気中(1)と水中(1/2)と土中(1/8)と違う事、死斑点の現れ方の違い、胃の中の消化物などから、姑は自宅で殺され、川に運ばれたと推定する。この作品はめずらしく加奈子を主人公にし、倒叙法で書かれている。
鞍馬の火祭り
十月、鞍馬の火祭りの日、サラ金に追い立てられた杉江光夫は、追及に来た暴力団の男を焼き殺し、そのまま逐電した。警察は杉江が殺されたと解釈し、彼は山田一夫と名をかえて大阪に住み、新しい妻を迎えた。8年ほど経つと、子供が学校に行く時期になり、妻に籍をいれてくれと迫られた。浮浪者山田昭夫を探し出し、無断でその籍を利用した。ところが発覚、1000万の大金を強請られるに及び、ついに殺害した。なんと山田昭夫は胴巻きに700万もの金を持っていた。死体は錘をつけて海に捨て、金を失敬し、悦に行っていると刑事がやってきた。「金貸し老人藤森俊平が殺され、大金が盗まれた。アリバイはあるか。」山田昭夫がやったのだ。しかし彼の事を述べ立てるわけには行かない!
なぜあなたは京都で死ぬの
京都駅八条口、評論家でお茶が趣味の檜美智子が殺されていた。抹茶茶碗、茶筅等が発見されたが、茶筅は東京で買ったものだった。容疑者はお茶に詳しい石田洋子、作家の藤沢五郎の二人、前者は犯行時刻京都にいたがアリバイがない、後者は東京にいたがしっかりしたアリバイがある。しかし若杉警部は茶筅が彼女の流派のものとは違う、茶灼がない、彼女のマンションを調べたところ、鳥篭でカナリアが青菜をついばみ、猫はミルクを飲んでいた、などから檜は一度東京に戻り、誰かに殺され、京都に再び運ばれたと解釈した。藤沢五郎にはアリバイがあるように見えるが、死体を運ぶとき車のヒーターをオンにしておけば死亡推定時刻を狂わせることは可能ではないか!
・茶筅は大きく分けて荒穂と数穂に分けられる。前者は濃茶用、後者は薄茶用。(195p要約)
鬼法楽殺人事件
京都廬山寺の鬼法楽は赤鬼、青鬼、黒鬼がユーモラスに踊り狂うことで有名である。今年は豆まきにスターの朝川一郎、池亜紀子の二人を招いている。祭りが終わって彼らが楽屋で一服し、豆を食べたところ、池が突然苦しみだし死んでしまった。翌日太秦での撮影中、二人の男が担ぐ籠の中で朝川が死んだ。仁丹かリップクリームに含まれていた毒が原因らしい。A.I.のイニシアルを縫い込んだセーターが三枚、二人の役者と朝川の昔の恋人がもう一人。犯人の目的は裏切った朝川だったが、間違えて最初に池を殺してしまった。探偵は推理作家佐田二郎。
時代祭に人が死ぬ
十月、華麗な昔の衣装を着けて都大路を練り歩く時代祭。突然市長の乗る車が爆発し、市長が亡くなった。しばらくして祭りは再開されたが、今度は女人行列の中、静御前が倒れた。知人から渡された精神安定剤カプセルは実は青酸カリ入りだった。容疑者は亡くなった赤軍派戦士の弟早坂二郎。数字錠のかかった倉庫に入っている車に爆薬を仕掛けたらしいのだが、どうやって数字錠をあけたのか。矢村麻沙子が、開いているときに開閉番号の分かっている鍵と取り替えておいた、と鮮やかに解いてみせる。
R001011