魔術はささやく 宮部みゆき

新潮文庫

解説(北川次郎)にあるように、物語の半分がすぎるくらいまで全体が見えてこない点、そのため読者が常にスリルを感じる点、「説明」と「描写」の明快な区別、生き生きとした会話、物語をどこから語るのかというプロット、それらが非常に優れている。そして根本に「愛」が語られ、弱者の気持ちが感動的に語られている点は従来の推理小説の枠を一歩も二歩も越えているのではないかと思う。

物語の発端はありふれた社会面に記事だった。若い女性がマンションの屋上から飛び降り、また別の女性が地下鉄に飛び込んだ。そして日下守の父がまた若い女をはねた。女は何かから逃げるように自動車のまえに飛び出してきたのだが証人がいない。
錠まえはずしの名人の義理の息子の守るが調べるといかがわしい雑誌と「愛を売る現代の売春婦」たちの座談会の記事が浮かび上がってくる。その座談会で女達はいかに男をだましたかを語ったのだった。
そのおかげで純情な愛を踏みにじられた若い心理学専攻の学生が自殺する。癌で余命幾ばくもない老教授は催眠術をつかって彼女たちへの復讐を試みる。キーワードをあたえると女達は自動的に自殺への道を歩むのだ。
守の父は幸い大会社の副社長吉武が目撃者として現れ、救われる。しかし、その吉武は実は守の行方不明になった父の殺害者であったのだ。老教授の証言で真相が明らかになったとき
守は今度は裁く側に回る。ここの心理の微妙な描き方が実にうまい。

「彼女はいう。私、金融会社に勤めているんだけれど、とってもノルマがきつくて困っているの。・・・・助けると思って名義を貸してくれない。絶対に迷惑はかけないわ。それともこうか。私、証券会社に知り合いがいてね。二度とないいい情報をつかんだっていわれて、投資を勧められているの。あなたもどうかしら。・・・・お金が儲かったら二人で海外旅行に行きましょうよ・・・・・。」(151p)