眼の壁    松本 清張

新潮文庫

 昭和電業製作所の関野徳一郎は、社員の給料日をまえに資金調達に苦労していたが、パクリ屋にひっかかり、3000万円の小切手をだましとられる。会社からせめられて彼はついに自殺する。

 部下の萩原竜雄は、学生時代の友人の新聞記者田村と共に復讐に立ち上がる。一味を紹介した金融業者からあたりをつけるうち、金融業者秘書の上崎絵津子、右翼の大物舟坂英明、酒場・レッドムーンとパクリ屋一味の関係が浮かび上がる。
 同じ様に事件を追及していた瀬能弁護士のもとの元警官が殺され、瀬能が拉致される。犯人と目されたレッドムーンのバーテン山崎は名古屋方面に逃亡。
 やがて木曾の山の中に瀬能弁護士の餓死死体、山崎こと黒池の腐食した首吊り死体が発見される。そして舟坂の伊勢からの逃亡、精神異常ではないかと思われる様な妙な買い物。
 彼は名古屋近くの知り合いの代議士の弟がやっている精神病院に逃げ込んでいた。首吊り死体は、皮革業者の使う硫酸クロム液に死体をつけたものだった。萩原等が踏み込んだ時、舟坂は硫酸クロム液浴槽に飛び込む。

 中島河太郎の解説によると、作者は、推理小説にはもっとリアリテイが必要だと述べている。そして犯人の動機の重視と、ひいては人間性、社会性の探求を重視した。この作品もその代表的な一つなのだろう。分かりやすい書き口と共に、「有りそうなことだ。」と思わせるところがミソだ。