講談社文庫
恋人に捨てられた湯浅貴久子は、赤岳で自殺を計ったが、世界的なアルピニスト影山隼人、眞柄慎二の二人に助けられる。やがて貴久子は、二人から恋されるが、結局陽性で何かと目立つ影山の愛を受け入れ、婚約。
3人で北アルプスK岳の赤い壁に挑むことにするが、直前に札幌出張と称し、眞柄が降りる。貴久子が、ふもとの小屋で待つうち、影山は一人で登り、夜半北峰到着の信号を送ってきたが、それは急に遭難信号に変わる。
まもなく、眞柄が、駆けつけた。翌日には救助隊が派遣され、頂上付近で影山の死体が発見された。落石らしくヘルメットにひびが入り、頭部に傷があった。遺体は現地で荼毘に付された。
しばらくして捜査にあたった大町署の熊耳敬助警部補は影山のかぶっていたヘルメットの内部が傷んでいないこと、下縁が損傷していることに気がつく。調査の結果、事故ではこんなことは起こり得ない、ヘルメットを頭部からはずして、石の上か何かに置き鈍器でたたいて、事故らしく見せたものと判明した。
しかし眞柄は、資産家の娘と婚約、貴久子に別れを告げる。眞柄が貴久子を得るために景山を殺した、という仮説は棄却されたように思われた。やがてヒマラヤK2峰登山隊副隊長に選ばれ、日本を後にする。
一方貴久子が事故当時の情報を調査した結果、眞柄は自分から出張を申し出、しかも事
故直前2日のアリバイはあいまいだった。そしてK岳頂上付近から送った信号はもっと近くから送ったものではないかと推定した。
彼女は眞柄に手紙を書く。K2登頂後の眞柄の事故死が伝えられた。それが自殺であることを、貴久子は、誰よりも知っていた。眞柄から送られた遺書が、事件の真相を明らかにし、真の動機を伝える。
登山場面、山で影山を荼毘にふす場面の記述はすばらしく、著者の経験の豊富さを忍ばせる。話も非常にまとまっていて面白いのだけれど、眞柄による事故に見せ掛けた殺人と言う筋書きは容易に推定がつく。
またふもとに下りてから送った信号が、山の頂上からきたものと間違えられるケースが、物理的には起こりにくい様におもえた。捜査では、早い段階でなぜ眞柄の事故前後のアリバイを当たらなかったのかとという点が疑問だった。
最後に恋人に裏切られつづけ、アルプスをすてて大都会に帰って行く 貴久子がの思いが現代人お孤独を物語っている。
「また明日からは、明日という日がどんな日か、確実に読み取れるような、死ぬほど退屈で単調な毎日を積み重ねていくのだ。でもそのような、品物が置かれていない生活にも、ただ一つだけよい事がある。それは期待を裏切られることが決してないということだ。最初から何も期待しなければ、裏切られることは何もない。現代人は期待をしてはいけないのだ。「孤独の人間が大勢寄り集まって、そしてもっと激しく孤独になるんだわ」(303P)」
・「北アルプス北部遭難競技会」は、大町署長を会長としてその指揮下に警部クラスの救
助大隊長、警部補クラスの救助隊長・・・・(88P)
・遭難死は変死の一種である。変死にはその態様から(1)犯罪死であることが明らかに認められるもの、(2)犯罪に起因しないことがあきらかなもの、(3)その死がが犯罪によるものかどうかについて疑いがあるもの・・・(94P)
・頭に受けた怪我・・・時間とともに血腫を作り、圧迫死をおこししんでしまう。(98P)
・完全犯罪の種類
(1)心神喪失を利用した犯罪のように、社会常識的に犯罪と見える行為があり、犯人も証拠もそろっていながら法律的に犯罪の責任を逃れるもの
(2)犯行の後が歴然とあり、犯人も割れていながら、有罪と認定するだけの証拠のないもの
(3)迷宮入り事件のように犯行のあとはありながら、犯人がわからないもの
(4)犯罪があったにもかかわらず、その痕跡、資料が全くないために、犯罪があったのかどうかすら分からないもの(168P)
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