燃えた花嫁          山村 美紗

光文社文庫

 日進化繊による人工皮革シャレードの発表前日、南禅寺を散策していた浜口は、人工皮革ファッション・ショーの取材に来たキャサリンに二年ぶりにであう。ところが出演予定のファッションモデル水木理沙子が、南禅寺の疎水トンネルで絞殺死体で発見された。トンネルは行き止まりの奧にあり、周囲は金網や塀で囲まれ密室に等しかったが、二人は彼女は上流雅ホテル近くで殺され、疎水を死体が下り、ゴミを採取する鉄柵にひっかかったと解いた。
 彼女は前の夜、バーでコースターの裏にONISIと書いたことが確認され、日進化繊販売部長大西が疑われた。狩矢警部が尋問に、犯行時刻、彼は自室におり、デザイナーの石野マリ子が尋ねてきたと言う。翌日、発表会場で外人モデルスカーレットが突如倒れた。青酸をぬった口紅を使用したためだった。
 首相令嬢吉川妃美子と外務省の北村の結婚式は、大西の働きで花嫁がシャレードのウエデイング・ドレスを着ることになった。ところが当日控え室という密室で、花嫁が突然燃え上がり死亡した。シャレードは燃え上がると言う噂がたち、評判が落ち、代わってライバル企業東西繊維エレーヌの株が上がった。
 「燃えるはずはない。」という技術者の主張に従ってモデルを使って挙式当日を再現したところ、ふたたびモデルが燃えてしまった・・・・。
 非難囂々、しかしキャサリンはなぜ幸せ一杯の花嫁が100円ライターで煙草なぞ吸おうとしたのか、窓際に倒れていたのはなぜか、灰皿もなぜ窓際に転がっていたのか、窓ガラスの外側に小さな汚れがついているがなぜか、など疑問に感じる
 キャサリンの実験により、燃え上がったのは、あらかじめセットしておいた容器から発生したエチルエーテル蒸気が、静電気によって発火したもの、と判明した。それが後発の東西繊維の謀略と宣伝され、立場が逆転した。東西繊維側のデザイナー中島が青酸入りウイスキーを飲み、遺書を残して死んでしまった。
 しかし遺書に疑いを持ったキャサリンは「男Xを中島と犯人の二人が愛した。Xと中島は犯人を殺害しようと呼びだし、倒して遺書を書かせようとしたが書かない。そこでXが中島に手本を書いてやるよう指示、言われるままに中島が書いたが、Xは実は犯人と組んでいて、中島を殺してしまった。」と解釈する。
 キャサリンは、Xは、東西繊維の田口副社長らしいと浜口と跡をつけ、副社長と本当の愛人らしい秘書の会話を盗聴する。しかし二人は、ホテルの自室で青酸を含んだアイスキューブをウイスキーと共に飲んで死んでしまう。弁護士と犯人を前に、この事件もキャサリンが解く。二人が外に出た後、犯人は秘書と偽り、フロントで鍵を受け取り、冷蔵庫のアイスキューブに青酸カリを振りかけ水をたらのである。するとわずかの時間で青酸カリ入りのアイスキューブができあがってしまう!
 犯人は、東西繊維から日進化繊に派遣されたスパイだった。ONISIは逆さに読めばそのまま犯人の名前になったのだ!

 いとも簡単に人が殺されるところはお手軽な感じだが、京都と繊維業界を中心にした話には華やかさがあり、次々仕掛けられる謎は読者にパズルを説くようなおもしろさを与える。まさに推理小説の種のオンパレードであるが、技術的に問題な箇所がいくつかある。
・青酸という言い方をしているがこの場合は青酸カリ、あるいは青酸化合物というべきではないだろうか。口紅に塗った位では、青酸カリは体内に吸い込まれないし、量も少ないから死なないのではないか。
・静電気による発火が確実に起こる可能性は少ない。静電気が発生したとしても着火エネルギーを越えねば発火しないし、そのときのエチルエーテル蒸気濃度が燃焼域に入っていなければならない。
 また逆から読んでも読める文字は母音ではIとO、子音ではH、N、S、X、ほかにMは逆から読んでWに見えるというトリックが使われる。お手本の遺書をだまして書かせ、殺してしまうという話も、時折推理小説では見られる。(一例:日下圭介「蝶たちは今・・・」)
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