モーツアルトは子守歌を歌わない   森 雅祐

講談社ハードカバー

モーツアルトの死後約10年、ウイーンはフランスナポレオン軍に占領されていた。
「モーツアルトの子守歌」を出版した楽譜屋トレークが、ベートーベンがオーケストラ を特訓中の劇場で、水浸しの焼死体となって発見された。ベートーヴェンと弟子のツエ ルニー、シューベルトの探偵行が始まる。
モーツアルトの死とその直後に自殺したフリースの死が、宮廷学長サリエリ、スウィー テン男爵、やフリーメーソンの陰謀ではないかとの疑問がわき上がる。さらに「モーツ アルトの子守歌」は実はフリースの作で、それには真相を示す暗号が隠されている。
暗号を解いた結果、モーツアルトの毒殺、ヨーゼフ2世のメッキ用の水銀ガスによる毒 殺、モーツアルトによるフリース毒殺等が明らかになる。
最後に偽のナポレオン軍に脅かされたサリエリが罪を告白し、ベートーヴェン等が危機 一髪で逃れた後、スウイーテン邸が爆破され、事件が終わるという筋書きである。
真実を追求しようと楽譜屋が塔の上に隠されたメッキの笛を取り出そうとして、落雷に あった。サリエリ等は分かっては困るから、死体を自宅に運び、放火し、自殺に見せか けようとした。ところがこれを覗いていたツエルニーが死体を運び出して劇場に運搬し たというトリックは現実的ではないが面白い。
「モーツアルトの子守歌」のトリックは一見もっともらしく見えるけれども、楽譜記号 と別に見つかった暗号をそれぞれ数字化して、足し合わせ、一つの文章を浮かび上がら せるもの。暗号を変えればどういう文章にもできると言う点が物足りない感じがする。
トファナ水、酢酸鉛、水銀ガスなどのなどの解説、物語への取り込みは面白い。
ウイーンの地名や案内がふんだんに盛り込まれ、19世紀初頭の同市にタイムトリップ した感じを与えるのは事実だが、風物や季節など情景描写が今一歩の感じがする。また 文章もこちらに古典音楽の知識が十分でないせいもあろうが、全体としてどうもわかり にくい。
・トファナ水は・・・・17世紀から、18世紀にかけて・・・主として、亜砒酸の水 溶液だというが、・・・・悪魔の水として量産され、カトリックの教義上、離婚の許さ れない婦人たちが亭主殺しに使用したため、未亡人が大量に発生したと言われる。(6 9p)
・(水銀蒸気の)換気には無頓着でしたから、皇帝をはじめ、当時の工房に出入りして いたものが水銀中毒になる危険性は大きかった訳です(223p)
・鉛糖(酢酸鉛)は古代ローマ以来、使用されているけれど、・・・ネロが晩年暴君に なったのは、鉛糖入りのワインを飲み続けて、精神異常となったためだったという説も あるの。(254p)