三一書房 都築道夫異色シリーズ
「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ。」という出だしはセバスチャン・ジャプリソの「シンデレラの罠」と同じ発想であることを暗示している。
私は作家、「猫の舌に釘をうて」という作品の束本に事件のあらましを書き付けて、秘密の場所に保管している。
私は殺人の実験をしてみようと、喫茶店「サンドリエ」の乗客、後藤のコーヒーに好きな有紀子の枕元から失敬してきた風邪薬を入れた。
ところがそれを飲んだ後藤が死んでしまった。
だれかが有紀子をねらっている・・・・・。
私は誰が本当に塚本有紀子をねらったか調査を密かに始めた。
ところが今度は仲間内の乱痴気パーテイの最中に当の有紀子が刺殺されてしまった。
そして束本に「有紀子殺害の犯人を・・・指摘して下さい。」の挑戦的記述!一体誰が・・・・。
悠紀子の夫は製薬会社を経営している。
記述をしたのは塚本製薬に勤める小早川の兄の大野木の仕業とわかり、さらに大野木は「君こそ犯人だ。」と私を指摘、自首を勧める。
そうなのだ、実は有紀子殺しの犯人は私なのだ。
しかし、断じて私は後藤殺しの犯人ではない。
後藤は塚本の出来の悪い兄で、大野木が一族の恥の後藤を除こうとしたに違いない。
しかし、今となってはどうだろう。
大野木は私を殺し、自殺に見せかけ、二つの殺人の犯人に仕立て上げようとしている・・・・。
状況の描写がうまい人だと思った。
その一例
・私は本格の謎解き小説でなければ、推理小説と認めないくらいだから、イギリスのニコラス・ブレイクに心酔している。
ことに好きなのは、「野獣死すべし」など比較的初期のものだが、それらの作品の中で、彼が編み出した新手というのは、犯人の計画が情勢に対応して、物語の背後で変化するのを、うまく使っていることだろう。(68p)
・終夜喫茶の中は、うす暗い。
もう12時はとうにすぎて、朝まで腰を据える気の客ばかりだから、ほとんどが靴を脱いでいる。1日中はいていた靴下のにおいは、それも1足や2足分ではないのだから、すさまじい。
それがなれるとエキゾチックで猥褻な香水を、かいでいるような気がするのだから妙だ。
今夜はおまけに湿った洋服のにおいが混ざって、空気は重苦しくよどんでいる。
私は全身をフレンチトーストにされるみたいな気分で、原稿を書いていた。(90p)
(都筑道夫異色シリーズ 三一書房)