光文社文庫
芭蕉研究の専門家である大学講師三浦八郎の一人息子の陽一は石神井川で遊んでいるうちに川から発生した硫化水素ガスで死んでしまう。ガスは川沿いの二つの工場が出した
硫酸と硫化ソーダの化学反応を起こした結果、発生したものだった。続いて謝りにきた日本重化学工業豊島工場長田辺英夫の心無い言葉により病弱な三浦の妻美智子が死亡、三浦は田辺と日本重化学を激しく非難する。
一方田辺は愛人の初美とよろしくやっていたが、それを種に初美の男森正武に脅される。森は同様に田辺に収賄藍を受けたらしい東京都職員の寺尾を脅していた。そんな折り、佐原部長刑事と相模湖にワカサギ釣りに行った藤森裁判医は、田辺の死体を発見した。一番の容疑者は田辺を憎んでいる三浦のはずだが、事件発生当時、彼は学生の若生康二と共に芭蕉忍者説を追って「奥の細道」を旅しており、尾去沢に宿泊していたから鉄壁のアリバイがあった。
ところがアリバイが崩れぬうちに湯河原温泉で三浦が青酸カリ自殺を遂げてしまった。側には「自分がやった」と認める遺書があった。事件は落着したに見えたが・・・。
しかし事件現場にあった芭蕉研究ノートは最後の数ページが破り取られていた。それにアリバイが崩れぬうちの自殺と言うのはどうもふに落ちない。引っ掛かりを感じ、若生、佐原部長刑事、浜島刑事の三人は、三浦
の後を追い「奥の細道」の旅に出る。三浦は、芭蕉が水戸光圀の命で動いていたと考えたらしいことが分かったが、事件については今一つ分からない。ただ、事件の日より3日ほど前に、芭蕉とあまり関係の無い天童に長逗留していた。天童は山形市および山形空港に近い!
一方そのころ野島刑事は三浦に陰の共犯者がいると考え、寺尾とその妻を追っていた。その野島刑事が死体となって発見された。
全編に公害告発と松尾芭蕉忍者説の研究が絡んでくるところがおもしろい。最後に藤森裁判医と寺尾の妻泰子、そして三浦の関係が明らかになる。普通読者は、法医学博士が死亡時刻を保証すればそれを疑うことはない。この作品はその逆を行ってアリバイを成立させたわけで、ユニークである。田辺の死体を解剖したところ、姫鱒とトンブリがでてきて食事した場所がわかるところなども工夫が凝らされている。
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