とむらい機関車・三狂人       大阪圭吉

とむらい機関車
 
数年前の話なんですが、D50/444号はオサセンこと長田泉三という機関手と杉本仙太郎という機関助手の担当でした。この機関車に身を投げた女性がいたんですが、オサセンはそれから七・七日機関室に小さな花輪を飾ったのです。それから1年くらいして妙なことが起こったんです。近所から盗まれた豚が1週間おきにに轢かれるんです。それで夜待ち伏せて調べたところ黒い人影に合わせて豚がふらふらとやってくるのです。私たちが飛び出したために黒い人影は逃げていってしまいましたが豚の様子がおかしかったので調べてみると葬儀用専門の飾り菓子を食べていたんです。これにはハナシバの果実を使っていて、それにはシキミン酸という痙攣毒が含まれていることが分かりました。そこで近くの葬儀屋を当たったところ十方社というところが浮かび上がりました。そこはおやじさんと少し頭の弱い娘がいたんです。警察に連絡して次の機会に現場をおさえようとしたんですが、遅かったのですね。娘は父を殺して自殺してしまったんです。死体から遺書が出てきたんです。1年前に飛び込んだ女性は彼女の母親だったんです。それで娘はオサセンの優しさに感激し、惚れたのです。そして死人がでればオサセンが自分の家に花輪を買いに来ると考えたのです。

三狂人
 
赤沢精神病院は今はすっかり寂れて、患者はつま先をいつも床に打ち付けているトントン、歌を歌って一人で歌手気分になっている歌姫、包帯をぐるぐる巻いて怪我をしているふりをする怪我人の三狂人だけである。赤沢医師は常々かれらに「脳味噌を入れ替えなくちゃ。」と悪態をついている。ある時赤沢医師と三人の狂人がいなくなった。懸命に探すと医師はトイレで顔を壊され、脳味噌を抜き取られて死んでいた。トントンは列車に頭を轢かれて死んでいた。歌姫と怪我人は戻ってきてこれで事件は終わりかと思われた。しかし赤沢医師の足の裏をついた松永博士は「まだ終わっていない!」足の裏が堅いのだ。するとトイレで死んでいたのはトントン。怪我人の包帯をとると赤沢医師になった。すると列車に轢かれたのは怪我人!破産に瀕した医師が、保険金獲得をねらって自己の消滅をはかった大ばくちでした。

寒の夜晴
 また雪の季節がやってきた。すぐに私は可哀相な浅見三四郎のことを思い出す。彼は私の勤めていたH市の女学校で英語の教師をしていた。家には愛する妻の比露子と二人の子供がおり、用心棒に従兄のM大学学生及川がいた。クリスマス・イブの夜、生徒の通報で駆けつけた私は、ストーブの灰掻棒で乱打されたらしい比露子と及川の死体、それに散乱した真新しいおもちゃを発見した。窓が開いており、スキーのあとが続いていたから、賊は窓から逃げたらしい。賊は子供を抱えていったのだろうか、1本のストックで走っているようで、途中の原で消えていた。
 しかし到着した田部井警部は、スキーの跡は逃げて行ったのではなく、犯人がやってきた跡、スキー跡が途中で原で消えているのはそこで雪が止んだから、1本のストックで走っているのはプレゼントを抱えていたから、と解釈する。弱いスキー跡がもう一つ隣の空き家に向かってついていた。中には三四郎と子供たちの死体・・・・。ロマンチックで悲しくて、それでいて推理小説として楽しめる作品である。

三の字旅行会
 赤帽の伝さんは奇妙な客に気がついた。毎日東京駅着午後三時の急行列車の三等車の三列目から毎日違った婦人客がおりてくる。きまってその後を赤インキで筆太に三の字を書いた手荷物を持って出向かえの男がついてくる。ある時聞いてみると、三の字旅行会と言って大阪方のある篤志家が、毎日選ばれた婦人を費用もちで一人づつ東京に遊びに送ってやるのだそうだ。
 ところがこの話を聞いた改札係の宇利氏が、ある時、この出迎えの男を捕まえた。「あの男は、万年筆屋の番頭で大阪から東京に運ぶ荷物の運賃をごまかしていたのさ。大阪で支部の男が入場券を買って荷物を列車の網棚に置く、東京で迎えに来たあの男がやっぱり入場券を買って乗り込み、荷物を回収する、婦人の跡をでむかえみたいな顔をしておりてくる、という寸法さ。」

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