講談社文庫
八月末、ライラックで知られる秩父の山荘に、日本芸術大学の学生八人が訪れる。美術部の日高鉄子、行武栄一、音楽学部の尼リリス、橘秋夫、牧数人、松平紗絽女、安孫子宏である。翌朝、日高が帰った後、突然の秩父警察署の訪問。近くの崖から炭焼きの男の墜落死体が発見されたが、側にスペードのエース、それに尼の万年筆、レインコートなどが落ちていたという。
橘と松平は婚約している。翌日、橘が渓流に釣りに行っている間、五人はココアを飲んだが、突然、松平が苦しみだした。郵便受けにスペードの2のカードが入っていた。警察で調べたところなんと死因は砒素中毒だった。しかも渓流釣りにでかけた橘は行方不明!手分けして捜すと、獅子岩近くで、松平の持っていたペーパーナイフで延髄をさされ、殺されていた。死体は川の冷たい水に浸かっており、死亡時刻すら推定がつかない。側にはスペードの3。山荘は園田万平とお花が管理している。お花は、刑事の要請で、橘のびくにあった鮎を調理しようとしたところ、いたんでいることを発見した。直後お花は、風呂場で絞殺死体で見つかる。側にはスペードの4。
そして葬式。東京からは二条というきざな男と共に日高が戻ってきた。ところがここでも第五の殺人。行武が火掻棒で殴り殺された。警察はアリバイのない安孫子を逮捕したが、二条は警察は間違いを犯していると指摘。安孫子も頑強に犯行を否定する。仕方なく警察は二条の要請で、安孫子と対面させ、真実を暴いてもらうことにするが、その二条が行方不明になり、気がついた時にはトリカブトを塗った吹き矢を打たれて死んでいた。側にはスペードの6。通夜の翌日、二階のパーゴラから流れる血が庭の彫像を赤く染めていた。尼が刺し殺されていた。庭にはスペードの7。しかも犯行時刻に安孫子は拘束されていたから犯人たりえない。絵の具を買いに東京に戻った日高が疑われるが、尼は溺死の証拠が出て、風呂場で殺されたらしい、東京に戻ったことは事実などとなり、容疑者からはずれる。
牧も疑いが晴れ、ついに素人探偵星影竜三に謎解きを依頼する。(情けない警察!)事情を聞いた星影はもう事件はおきない、東京に戻りすべてを解明すると約束。そして事件解明の日、マントルピースの上に置いた証拠の品を取りに来た犯人を逮捕する!
牧とどうしても結婚したかった女は、過去の不行跡を隠したかった。炭焼きの親父の事故死を殺人に見せ掛けてカモフラージュし、目的の橘、松平を消す。ただ犯人は、アリバイ作りを目的に二人の殺人を逆に見せる必要があった。そのためスペードのトランプカードをおき、さらに買ってきた鮎を橘のびくにいれて、長い間釣りをしていたように見せ掛けた。後は証人の口封じ。松平殺しのおりは犯人も砒素入りココアを飲んだが、1%溶液を常用していたため、中毒にならなかった。行武は以前メチルアルコール中毒で赤緑色盲にかかっているところを利用された。しかし真実を知り、自分の恋人を守ろうと殺人をも辞さない、第二の犯人がいた・・・・・。
閉ざされた系での連続殺人事件、しかもその方法がいづれも凝っている、そして天才探偵の登場・・・・まさに本格派推理小説の典型である。作者はこの作品を1953年に発表して以来、76年まで実に十種類の本を出し、そのたびに改訂している。それだけ思い入れも深かったのではないかと考える。音楽に対する蘊蓄も面白い。
r990927