ロートレック荘事件

ロートレック荘事件     筒井康隆

新潮文庫

ぱらぱらと開くとところどころにロートレックの絵があり、楽しそうな作品である。
夏の終わり、浜口修と幼いときに彼が事故で怪我をさせ、不具の小人にしてしまったいとこの重樹、それに工藤忠明は財産家の木内文麿氏の招待で軽井沢のロートレック荘に赴く。
そこには木内氏の息女典子、財産はないがやさしい牧野寛子、それに娘を売り込みたい母に連れられた立原絵里の三人処女。
ところが2発の銃声が、「おれ」と愛を終えた牧野寛子を倒し、ついで同様の方法で典子、それに絵里も殺される。
犯人は、煙のごとく消え去ってしまった。
脱出経路の問題から使用人の馬場金造や飛び入りでおとずれた木内氏の会社社員のしころなどに読者の疑いがむけられる。
しかし真犯人は重樹で、彼はかってロートレック荘に住んでおり、犯行の鍵となる壁に隠された古い拳銃、犯行現場に出入りするための食事を持ち上げるダム・ウエイター、二つの部屋を結ぶ秘密の通路などをよく知っていた。
しかもダム・ウエイターには重量制限があり、重樹以外には考えられない!
殺人の動機は、三人の女性が盛んに修にモーションをかける、修が結婚するとおれの面倒を見てくれなくなる、なんとかして結婚話をぶち壊してやりたいと考えた末の犯行。
犯行後に、木内典子の母親が実は典子は重樹を愛していたのだと知らせるところも面白い。

ところでこの作品では「おれ」が問題で第1章は浜口修、17章以下は浜口重樹なのだが、途中はあたかも同一人物であるような記述をしているから、読者は犯人とは考えないところがミソになっている。
アンフェアーであるかどうかは別として一つの考え方としては面白い。
同様の読者をだます?手法はクリステイの「アクロイド殺人事件」、 バリンジャーの「消えた時間」、小泉喜美子の「弁護側の証人」などで用いられている。

なお由良三郎氏の「ミステリーの泣きどころ」によると、ダム・ウエイターは開閉昇降操作のボタンが外にあるから、中に自分が入っては操作できないはずだとしている。

・そもそも我々は古代エジプトの侏儒神ベスをはじめとして、ギリシャローマ時代以来 の魔除けのお守り、一寸法師は姫の護衛ですべてあなたのお役に立ち、さらに知恵ある 少彦名は芸能の神。これでもう私の将来は約束されたようなもので前途洋々、いずれは 侏儒褒賞がもらえます。(128p)