錆びた炎    小林久三

角川文庫

種村総合病院、その建物の形からペンタゴンとさえ呼ばれる都内屈指の総合病院である。 その病院から血友病の5才の男の子が誘拐され,72時間以内に救出しないと命が危ない という。犯人からは「まず3600万円用意しろ。今後交渉には種村一族以外は相手に しない。」の電話。
「病院には関係ない。」と息巻くワンマン院長の誠一郎だったが、男の子の母親雅子の 出現により、息子の光晴の子であることが暴露される。誠一郎がついに妥協し金額をそ ろえ、お手伝いの比佐子に持たせる。犯人は比佐子を自動切符売り場に張り付けた点字 テープによって指示を与え、地下鉄を次から次へと乗り換えさせる。そして赤坂見附で 銀座線から丸の内線へ客が流れるどさくさを利用して金を受け取る。子供は返される。
この事件の少し前、渋谷のあるホテルで貧乏医者が殺された。現場を立ち去ったシャム 猫を鳥かごに入れて持つ女・・・。ところが光晴の妻登志子がシャム猫をやはり鳥かご に入れていた。二つの事件の関連が追及される。
そして誘拐犯の一味と見られた医学部志望の浪人多久の青酸カリ中毒死。次に誘拐犯ら しい女は雅子を呼び出し、雑踏の赤坂見付駅に誘う。彼女が雅子を突き落とそうとした 瞬間刑事の手が・・・。
比佐子の恋人は事故の後、二つの病院をたらい回しにされた後、死亡した。そのうちの 一つが種村総合病院、そしてもう一つの病院の当直がホテルで殺された貧乏医者だった が、彼は登志子に変装した雅子と浮気の最中だった。一方雅子は血友病の息子を実の父 親の病院に入れているにも関わらず、金がかかり、借金に苦しめられていた。ふとした きっかけで比佐子、雅子、多久が組み、おこした誘拐劇だった。
社会的には医者の救急患者のたらいまわしという問題点を取り上げているところが面白 い。私自身としては解説にあった次の言葉が非常に参考になった。
「誰でも殺してしまいたいと思っている人間が、一人や二人はいるだろう。そいつを殺 せばいいんだよ。上司だとか友人だとかさ。山の中かどっかに連れていって殺してしま う。どこだってかまわないよ。仕事場だって道端だってかまわない。そう考えれば、推 理小説なんてすぐ書けるよ。」(352p)
・誘拐事件の頻発に悩むイタリアで、若い検事が出した
「身代金支払い禁止命令」
の話が参考になった。ミラノで起きた二つの誘拐劇ではこれが適用されたために被誘拐 者が共に殺された。(69p)