桜子は帰ってきたか   麗 羅

文芸春秋ハードカバー

 1945年、北満の大帽子は関東軍の壊滅とソ連軍の侵入に揺れていた。憲兵に、夫・安藤真琴を殺された桜子は、朝鮮人クレとともに、単独で日本に向かう。途中、匪賊に襲われた近所の女性、田代幸恵、三津森徳子、新倉ヨシの三人を助ける。五人は行動を共にするが田代は、クレを誘惑し、二人で逃げようとはかる。大変な苦労の末、逃避行に成功した彼らは、北朝鮮の漁大津から船で帰ろうとするが、小さな事件でクレが取り残され当局に逮捕されてしまった。。
 それから三ヶ月後、石川県で舳倉島に行ったらしい漁師二人が死体で発見された。トカレフで頭を撃ち抜かれていた。そして新潟では、男装をした女の水死体があがった。
 10数年後、弁護士で桜子の父久能耕作は、最上三十三観音巡業中に何者かに廃坑後で殺される。さらに20数年後、桜子の遺児真一のもとに33年の刑を終え、脱走してきたクレが現れる。田代の遺児、張国勇が縁者を求めて来日し、真一にあうが何者かに殺される。
 田代幸恵、実は坂野世津子と船頭都万守の犯行と考えた真一、クレは、真一が父の代から世話になっている全国信用金庫組合理事長山平の援助で真相究明に向かう。
 実は桜子、徳子、ヨシ、さらに二人の漁師を殺して漁師の都と共に日本についた世津子は、安藤真琴と田代医師を殺した憲兵山平と謀って、都を処分した後、結婚した。奪った金で成功した山平は、信金理事長に納まったが、事件の発覚を恐れ、久能耕作、張国勇等を殺したのだった。
 彼らの手に落ち、手錠をはめられ、ダイナマイトをくくりつけられたクレは、平然と懺悔の祈りを捧げる崖縁の山平夫妻に、そのまま猛然と襲いかかる。

 歴史と推理小説の要件を非常にうまく融合させ、スケールの大きい、楽しめる作品にしている。冒頭の北満でクレが黙々と真琴の墓を掘り、桜子が見守っているシーンは劇的で読者は思わず引き込まれて行く。

・一時帰国した孤児達は・・・二十日間の滞在許可しか与えられていない。・・・・日本人だと証明された者は、中国に戻ってからあらためて旅券の発給を受けて・・・(119p)
・深い海での溺死でもう一つの問題は死体の浮上に関してである。 浅いところでは死体の腐敗に伴うガスの発生で、著しい浮力が生じ、夏では大体2、3日で浮上してくる。 その他の季節では気温によって一定しない。 水深も30ー40メートルになると四季にかかわらず摂氏4度前後で冷たいし、これに前記の水圧の点も加わって、永久に浮上しないこともありうる。(204p)

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