寒い夫婦           土屋 隆夫  

光文社文庫

気まぐれな死体
キャバレーのホステス悦子と結婚した運転手の深井が「「妻と喧嘩し、後頭部を柱にたたきつけて殺した。」と言っている。」と仲人の石上から警察に連絡が入った。しかし死体はどういう訳か別の場所に・・・。深井は死体移動を否定したまま自殺する。刑事が石上を訪ね、死体が持っていた石上の指紋のついたマッチを示し「悦子は死んでいなかった。深井がでていった後、夫の暴力を訴えるべく、あなたを訪問し、殺された。」

氷の椅子
「小説海峡」の編集長深見浩一郎のもとに、3ヶ月前に原稿を持ち込みながら、深見に断られ、その後青酸カリで死んだ杉原正哉の妹優子がやってきた。正哉の持ち込み原稿「氷の椅子」と同じトリックが、今月号の「小説海峡」に乗っている今売り出し中の白鳥文彦の「虚実の氷点」に使われているというのだ。そして白鳥を売り出したかった深見が、妻と共同して杉原を殺したのだという。

老後の楽しみ
市役所のエリート課長笹井健吉のもとに大友なる男が訪ねてきて「青少年の性行為のはけ口を作るために」市営モーテルを建設せよ、と訴える。相手にしなかったが、笹井がある女と関係し出来た赤ん坊を神社の拝殿の影に捨てたのを、目撃し強請に来たのだ。軽罪学入門と同じアイデア。

地図にない道
坂井加代は、風間雄一と見合い結婚をした。幸せな生活が続いたが、ある日車の酔い止め薬とともに届いた手紙を受け取ってから夫は沈み込み始めた。そして夏のある日夫は、名古屋に出張すると出かけたが、信州で車の中で発作を起こして死んでしまう。 加代は夫の持っていた新聞を切り抜いた女の写真から、夫が河野由希子という女性が青酸カリ自殺を遂げた事件に関係があることを突き止め、夫の昔の足取りを追う。夫は、3年前、木田芳子と関係し、芳子が妊娠したために信州の旅に誘い、殺そうとした。ところが事前に酔い止めの薬として与えた毒薬を、芳子は、車中で由希子に与えてしまったためにおきてしまった事件だった。

暗い部屋
事故で大けがをし、盲目になった男に女は冷たい。電気も消してでようとするが男は女に浮気の事実を突きつけ、女が出した睡眠薬が毒薬であることもみやぶり、女を追いつめる。

寒い夫婦
私は、恩師に取り入るために結婚したわがままで素行の修まらぬ妻を、殺そうと計画した。「懸賞推理小説に応募するから清書してくれ。」と江戸川乱歩の「人間椅子」をそのまま書いて投稿させた。次の作品、と遺書めいた文章も書かせた。そして胃薬と称して研究室から持ち出した砒素を飲ませようとしたが・・・・。

推理の花道
人気役者紋十郎が 「5年前に師匠の紋太夫が河原で何者かに撲殺された事件があった。 最近になってあれは自分がやったことだと分かった。」 と言い残して引退した。 その告白によれば、国をでた物の成功しなかった紋十郎が、芸の事で失敗し、 師匠の叱責を恐れて夜の河原にでたが、 紋十郎あての母の写真の入った手紙を発見した師匠が心配して後を追った。 母の写真を見た紋十郎が無我夢中で持った棍棒で師匠を殴りつけたというのが真相らしい。 この小編は活弁風の文章の運びが魅力だった。