角川文庫
銀座のバーの「やしろ」の経営者屋代時枝は、西麻布のマンションに住んでいる。店に数回来たことのある岸本と言う男が、銀座で働きたがっている女の子を紹介するとやってきた。女は安井真知子と言った。気に入って採用しようかと考えていたところ、一瞬の隙をつかれ絞め殺された。
多摩川の河原で婚約者の北原美和とよろしくやっていた竹浦真吾は、突然暴漢に襲われ、美和を陵辱された。狛江署が捜査すると、現場に「やしろ」のマッチが残されていた。警察では二つの事件の関連を考えた。
時枝の名簿を整理していた麻布署は、浄水機会社専務芦野通夫の「つけはこちらに回してくれ」と書き込みのある名刺を見つけ、追求したところ昆虫採集で知り合った岸本という男に渡したと答えた。
赤坂で「ヒロイン」なるバーを経営している真田繁美は、金に困っていた。客の岸本なる男が、ある外人の相手をすれば、良い金になると紹介され、引き受ける。その後彼女は行方不明になり、恋人の連絡で捜査した赤坂署は、部屋から屋代時江の持ち物だったライターを見つける。
事件がきっかけで美和と別れた竹浦真吾は、76歳になる父が偶然知り合った安井真知子なる23歳の女性に夢中になり、結婚しようと思っていると聞き驚く。あってみるとどうも財産目当てらしいのだが、しっぽを掴ませない。ところが真知子が置き忘れたブローチを発見、それがかって北原美和に贈ったものだったから驚いた。屋代時枝の妹由美子と一緒に警察に届け出た。
三つの事件の関連性が浮かび上がり、合同捜査が開始された。真知子のマンションを訪ねると、彼女は自室で絞め殺されていた。
由美子、真吾は真知子が身寄りのない老人に目をつけていると考えあたっていたところ、石野老人にであった。老人は真知子からアルゴというメーカーの血圧計をプレゼントされており、1000万円をだまし取られていながら、訴えようとは考えていなかったようだった。アルゴは倒産しており、その登記簿を調べたところ、村岡始と岸本弘行の名が浮かんできた。
二人の通報と屋代殺し現場に残された食べかけのチーズに残された歯形から、村岡が逮捕された。村岡は、屋代殺しと真知子殺しを自供する。金に困り、岸本、安井を仲間に引き入れ、屋代を襲った。しかし岸本は強姦事件を起こすなど手に余った。真知子は身辺に危険がせまり殺さざるを得なかった。岸本の行方については知らない、と主張する。
その岸本が死体で発見された。現場には昆虫採集に使われるオルトトリジンと酢酸エチルが発見され、そのような特殊な薬剤を扱っている芦野が事情を聴取される。否定するものの、車から証拠が発見され自白に追い込まれる。彼は岸本を通じて、真田を外人接待用に雇ったが、真田が事故死し、隠したため、岸本に脅迫されることとなり、最後には殺さざるを得なかったのだ。
解説にいうようにバーのマダム、孤独な老人という、現代社会が喪失したスキンシップに焦点を当てているところが特徴である。
ただ、私はタイトルから「株式会社というからにはかなり組織立ったものだったろう。」と考えたが、犯行は場当たり的な物が主体であり、やや期待を裏切った。
会社の登記簿謄本チェック、青酸に死なない蝶、オルトトリジンなどの記述は興味深い。
ところでこの小説の主人公は由美子、真吾ということになるが、普通の推理小説における探偵とはかなり位置づけが違う。彼ら二人は素人としてできる範囲の事をし、後は警察に任せる、その警察も組織で動く、と言った風に書かれている。むしろ当たり前で常識的な書き方なのだが、そうしない作品が多く、かえって面白く感じられた。
・飛行機手形(30P)
・愛はエネルギーの交換である。愛されるということは、相手からおびただしいエネルギーを補給されることである。由美子は姉を失って、自分がいかに姉を愛しているかを知った。(34P)
・12個以上の特定点と組み立て指紋について(69P)
・区の後援で、地域の一人暮らしの老人を対象に、月一度ボランテイアが家庭料理を届ける。・・・・年寄りたちはその給食日を首を長くして待ちこがれている。料理そのものよりも、ボランテイアと一緒に食べる家族の食卓の味を恋しがっているのである。(166p)
・お年寄りなんて、人生ぼろぼろになるまで働いて、余生をひとりぼっちで暮らしたがるはずがないじゃないの。みなスキンシップの相手を欲しがっているのよ。(166P)
・商業登記簿の閲覧と限界(176P)
・死後硬直について(206P)
・オルトトリジンは塩素試薬として用いられ・・・・浄水機メーカーがセールスのデモンストレーションによく使う。(209P)
・ベニモンマダラという蛾は青酸カリがまったくききません。(「虫のいい虫の話」光瀬龍+奥本大三郎・リヨン社刊)(220P)
・日本刑法は、自国民たると外国人たるとを問わず、日本国内で罪を犯したものに適用される。・・・「日米犯罪人引き渡し条約」・・・・死体が発見されない場合、犯人の自供があり、殺人があった事実を示す明らかな証拠がない限り、逮捕や起訴されることはない。(230P)
・昆虫採集・浄水機・オルトトリジン・酢酸エチル・孤独な老人・商業登記簿・組み立て指紋
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