瀬戸内殺人海流     西村 寿行

角川文庫

密告があって、捜査二課は、関東道路公社前原浩二と野沢建設社長野沢禎三の間の汚職を調べ、前原の下の課長高路靖雄に目をつけていた。ところが高路は、つれこみホテルの浴槽で頭を打って死亡、自殺として処理された。定年間近の捜査一課刑事遠野は、防御のためにつくべき指紋が無かったことに疑問を持つ。
事件に関係があると思われた山陸新聞東京支社営業部長狩野草介の最愛の妻千弘が前触れもなく蒸発してしまった。高路の妻の証言から、死んだ高路や捜査段階で浮かび上がった横田夫妻を中心とする異常性愛グループの存在が浮かび上がった。千弘は何らかの理由でこれに巻き込まれたのではないか。
そしてまもなく瀬戸内海で千弘は無惨な死体となって発見される。遠藤とも相談の上狩野は職を辞して、千弘の敵を討とうと決意する。
瀬戸の潮流を考えて死んだ山羊を流し、死亡場所を推定することから始まった。そして男木島。汚職事件の間に介在すると見られる大東建設の別荘があった。画家の山岡順吉というひどく人つきあいの悪い男が管理している。やがて彼が野沢の弟で熊鷹を飼い、多くの生き物を襲わせていることが判明する。
狩野と千弘の妹沙絵はそこで飲み屋「潮流亭」を開き、山岡に接触し、証拠をつかもうとする。山岡は残忍な男だった。猫や犬を平気で熊鷹の餌に与える。それをとがめると山岡は「島に迷いこんだ大型犬がいる。あれを闘犬に育てて見よ。そののち熊鷹と戦わせよう。」狩野は必死に迷い犬虎を闘犬にしこもうと苦労する。結果は無惨で虎は熊鷹の餌になってしまう。しかし狩野は共犯の横田夫婦婦等を見つけることに成功する。
この間に東京では遠野を中心に着々と捜査が進展した。野沢、前原が密告者を消そう、と考えた事から始まった。鉄壁に見えた山岡のアリバイが、崩れ、千弘を連れ去ったことが分かった。異常性愛グループが摘発され、千弘が引き込まれた経緯が判明した。汚職に山岡の絵が利用されていることが判明した、等々。
最後に山犬が熊鷹に挑戦、熊鷹が散る。山犬の餌に熊鷹を与えるか否かでもめる頃、山岡にすでに関係者を逮捕した遠野等が迫る。
全体、非情な悪に立ち向かう執念の男の姿を描いて、男らしい作品になっている。ほかに山羊を流しての死亡場所の推定、熊鷹と迷い犬、山犬の2度にわたる戦いがこの小説の大きな魅力になっている。
・ 高等動物の行動を呪縛し、規制するものは性である。猿の社会を見ると分かる。(80p)
・人々は潮のひく時に死んでいます。(130P)
・ 船舶または航空機が、十代かつ緊急のせまった場合がSOS、重大な危険のおそれのある場合が、XXX。SOSに次ぐ優先緊急通信です。(302P)
・ 魚を運ぶときに麻酔薬を鰓に掛けて運ぶと、仮死状態だから、酸素はほとんどいらない。当然炭化ガスもでない。水はよごれない。従って一定容量の水で大量に魚が運べるんです。(314p)
・人の意識を一瞬で奪う危険な麻酔剤が、工業試薬を扱う薬局ならどこでも売っていて、三文印さえあれば誰でも、500グラム瓶が500円前後で買えると分かったのだ。(346p)
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