終着駅殺人事件   西村京太郎

光文社文庫

 7人は青森県のF高校を出て、集団就職した。4月の始め、宮本孝の呼びかけで7年ぶりで上野駅に集合し、寝台特急ゆうづる7号に乗り、2泊3日の里帰りの旅に立つことにした。その招待状は個人個人で皆違っており、凝ったものに思われた。しかし安田章があらわれず、宮本と川島史郎、片岡清之、町田隆夫、樋口まゆみ、村上陽子が乗ることになった。まもなく安田章の死体が上野駅のトイレで発見された。列車の中でも仙台に行く手前で、川島がいなくなっていることに気がついた。
 一方亀井刑事の昔の友人で、青森で高校教師をやっている森下が、上京してきた。亀井は森下に消息を絶った教え子の松木紀子を探してほしいと頼まれる。松木は、新宿のバーにいたが、バーテン西山英司を刺す事件を起こしていた。森下が西山を見つけ、殴り倒すが、そのことから森下が松木を妊娠させていたことが分かり、亀井はあきれてしまう。
事件に十津川警部と亀井刑事が、青森県警などと連絡を取りながらあたることになった。
 川島は、深夜水戸でおり結城までタクシーで行った事が確認されたが、その後鬼怒川で水死体で発見された。川島が何かの理由で安田を殺し、自殺したらしいとの見解が出て青森のホテルに足止めを食っていた5人は解放されることになった。その矢先、樋口まゆみが密室状態の自室で死んだ。ビタミン剤を所持していたが、なぜか青酸中毒死。彼女は片岡の子を宿していたが片岡は殺していないと主張する。
この7年間の都会での生活はそれぞれに違った。川島は運輸業経営といっていたがほとんど破産状態だった。村上は音楽会社で派手な生活をしているとの触れ込みだが、地方巡業で前座に歌わせてもらう歌手に過ぎなかった。宮本はたしかに法律事務所にまじめに勤務しているが、みんなの秘密を知っていた。片岡は二代目社長などと得意になっているが、親父の金を使っているに過ぎない。町田は正当防衛に近い殺人で網走に3年いっており、現在は詩人ということだが、何で食べているやら。
今度は青森駅で村上が何者かに絞殺された。上野駅で片岡が薬物によって殺された。すると犯人は宮本か町田ということになるが、町田には殺害時に列車の中にいたというアリバイがあった。町田には共犯者がいたのではないか?
川島殺人のトリックは、特急ゆうずる7号は途中駅での運転停車時間が長いため、水戸で殺害後、車をとばし仙台で追いつくことが出来る。ただし亀井が森下と実際に乗ってテストしたとき、時間の都合で、夕鶴5号で実験したが、この場合は仙台に着く時間が早く間に合わず錯覚を招いた。樋口殺しのトリックは、ビタミン剤に青酸カリをぬりつけてすすめ、結果として密室殺人になってしまったもの。

久しぶりの同期のあつまり、しかし宮本の招待状は犯人に昔を思い起こさせた。婚約者のいた姉が、彼らのいたずら心で紹介された霊能者を名乗る旅役者に犯され、自殺して果てた事件を。当人は何でもない、と思ってすることが時として他人の心を深く傷つける、という教訓か?彼らがこの7年間にどういう生活をしてきたかというバックグラウンドがあるために話に奥行きがある。トリックもなかなか凝っていて面白い。上野駅に対する作者の考え方も良く分かる・・・しかし犯罪の動機は今一つ弱い感じだなあ。もっともクリステイの「そして誰もいなくなった」だって同じようなものだが。
日本推理作家協会賞を取った作品で、氏は多くのトラベルミステリーを書いているがその代表的作品ということが出来よう。

・「七人の旅行が、単なる旅行とは違っていたからです。昔の高校時代の仲間が、誘い合って、観光に出かけたというのとは違います。彼らが、夜行列車に乗って向かったのは、故郷なんです。そこには、彼らの過去があり、彼らの家族がいるわけです。しかも、東京のように、開かれた土地ではありません。良くも悪くも、閉ざされた土地です。人間の恨みつらみは、東京みたいな大都会では、拡散して、薄められてしまうかもしれませんが、東北では、逆なのです。恨みっらみは、一層、どろどろしたものになっていくはずです。そうした作用は、上野駅で、すでに始まったと思うのです。上野は、東北から上京して来る人間にとっては終着駅ですが、同時に、北へ帰る人間にとっては、始発駅であるからです。もし、七人の一人が、他の仲間に対して、恨みつらみを抱いていたとすれば、故郷の青森へ近づくにつれて、今、申しあげたように、その人間の胸の中で一層、どろどろしたものになっていったはずなのです。それなのに、良心の呵責に耐えかねて、途中下車をし、投身自殺をしたなどということは、どうしても考えられないのです。第一、そんな気の弱い人間なら、上野駅で、仲間の一人を、あんな残酷なやり方で殺したりはしないと思うのです」(亀井刑事の言葉 238p)

(1980 50歳)
r991203 rr000511