徳間書店
明治9年、それぞれ固有の文化を持つ北・東信地区の長野県、中・南信地区の筑摩県の二つが合併して長野県になった。しかし中・南信地区を中心に分県論者が多かった。終戦後、その分権論が一時浮上したが、今では県歌になっている「信濃の国」と共に消え去った。
信濃の国は 十州に/境連ぬる 国にして/聳ゆる山は いや高く/流るる川は いや遠し/松本、伊那、佐久、善光寺/四つの平は
肥沃の地/海こそなけれ 物沢に/万ず足らはぬ ことぞなき・・・
長野市に本社のある「信州毎朝」の記者、中嶋英俊は、馬渕洋子との結婚を控えていたが、突如牧田編集局次長から小諸支局勤務を命ぜられ落胆する。しかもその牧田が中嶋と酒を飲み別れたあと、水内ダムに絞殺死体となって浮かび容疑者になってしまう。
恵那山トンネル付近で塩尻市の会社社長谷口節夫の絞殺死体が見つかった。県警の「名探偵・信濃のコロンブス」こと竹村岩男も現地に駆けつけるが、彼は水内ダム事件との関連が気になる。被害者は他所で殺され、運ばれたらしいが、それにして妙な場所に死体を捨てたものだ。
竹村の元に長野中央署が、中嶋を逮捕したとの報が入る。長野に戻った竹村は、新聞記者青木健夫の紹介で洋子を知るが、第三の殺人事件に遭遇してしまった。更埴市の寺の境内で歯科医甘利敏男の妻知美が絞殺死体で発見されたのだ。彼女は最近何か悩んでいる様子だったと言う。
秋も深まった頃、塩尻市の平沼武太郎翁の絞殺死体が、浦島太郎伝説のある寝覚めの床で発見された。中嶋はようやく釈放されたが、新妻の洋子が妙なことに気がついた。水内ダムは久米路橋、寝覚めの床はそのまま、更埴市の寺は姨捨山、恵那山トンネルは園原の名で「信濃の国」の唄に出てくる長野の名勝なのだ!新聞記者の青木が消えた。
洋子の知らせを元に、竹村は、平沼武太郎と牧田、谷口、甘利の父親が昭和22年の中・南選出県会議員で、彼らは長野の分県運動をしていたことを突き止めた。彼らに一人生き残りがいた。茅野市の遠山光次郎で、病床の彼は、そのころの血染めの誓約書を示した。裏切った場合は「死を与へらるるとも、異をとなえず。」しかしすでに四十年前のことであり、遠山に他のメンバーを殺す力は残っていないようだ。すると誰が連続殺人を…。青木の死体が発見された。竹村の執拗な追求が続く。
狂信的な分県論者の犯行を息子が隠蔽しようとしたものだが、信州分県騒動と、「信濃の国」の歌に焦点を当てたところが、抒情あふれて趣向として面白いと思った。長野県にまつわる話や塩の道での最後の会話なども、作者ならではの書きぶりと思う。ただトリックらしいものがあまりないのがちょっと物足りない。
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