光文社文庫
週刊誌記者の青木は、取材のため、東京駅から西鹿児島ゆきの<はやぶさ>に乗る。ホームで薄茶色のコートの美人を見つけ、写真をとるが、彼女は隣のコンパートメントにいた。食堂で彼女を見かけ、一緒のテーブルに坐ると三十七、八歳の美男子だが冷酷な感じのする男が同じように坐った。女が去った後、彼は弁護士の高田と名乗った。ところがカメラを忘れて取りに戻ると、フィルムが抜き取られていた。
夜中に尿意を催して目が覚め、ふと隣のコンパートメントから出てくる女性をみると何と別人だった。時刻表を見て驚いた。自分は一本後の<富士>に乗っている!切符に困って車掌に相談に行ったところ、後ろから殴り付けられ、気を失った。気が付いた時には博多駅のホームにいた。
多摩川で女性の水死体が見つかった。彼女は、青木の名詞のほかに外遊中の運輸大臣武田信太郎の名詞を持っていた。武田は二年前に企業から党に送られた献金五億円を詐欺されている。この事件との関連が考えられたため、十津川警部に極秘捜査の命が下った。
青木の主張にいったんは疑問が呈されたが、青木が再度ブルートレインに乗って調査し、<はやぶさ>も<富士>も岡山駅で荷物積み下ろし等のために運転停車することが分かった。どうやら女は、コンパートメントの中で殺され、給水車で東京にはこばれ、多摩川に捨てられたものらしい。青木は時計の時間を変えられていたため、<富士>に乗っていたと錯覚したが、犯人に発覚しそうになり殴られたらしい。
女はかって高田弁護士が弁護したことのある男、田久保信一の妻涼子と判明した。その後田久保は自殺しており、高田が涼子を殺す動機が無いとは言えなかった。しかしひどくこの殺人はひどく多人数を使って計画的である。何か他の目的があるのではないか。
外遊中の武田が戻ってきた。ブルートレインでお国入りするという。それだ、高田は何か武田に恨みをもっていて抹殺しようとしているのだ。田久保涼子殺しは、その演習だ。十津川はあの<ふじ>の車掌を口封じのために殺した犯人が乗っている、としてお国入り列車<はやぶさ>を強制捜査するが、該当者はいない。
そして十津川のもとに電話、高田の名を名乗り「あの列車に時限爆弾が仕掛けられた。午前二時に爆発する。」
ふたたび<はやぶさ>車内。いつのまにか大臣に付き添っていたSP等は眠り込んでいた。給水車に睡眠薬が仕掛けられていたのである。そして爆発。武田運輸大臣は病院に運び込まれたがすでに液体青酸(テジロン)を注射されて死亡していた。
高田は、自分が弁護をした人達、10数人を仲間に引き込み、自分の弱みを握る水野を抹殺しようとしたことが明らかになった。指名手配が出されたとき、高田がひょうひょうと自首してきた・・・・。
時代は変わったもの、いまでこそブルートレインでお国入りなどと言ったら笑われるだろうが、この作品が発表された頃(昭和五十三年)は、まだありえあたのかも知れない。プロットのよく考えられた作品である。特に冒頭の週刊誌記者青木が不思議な体験をするところは秀逸で読者にぞくぞくさせる。トリックもなかなか凝っている。ただ高田のこれほどまでに危険を冒して運輸大臣を殺す犯罪動機は、どうも弱いような気がした。考えられるとすれば、自分の人生に絶望した高田が運輸大臣をみちづれに自殺した、という線だが・・・・。
(1978)
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