死のフェニーチェ劇場     ドナ・M・レオン

文芸春秋ハードカバー

 サントリーミステリー大賞は日本人作家の作品主体だが、これはヴェニスに住むアメリカ人女性作家の作品である。ヴェニス・フェニーチェ劇場で世界的指揮者ヘルムート・ベルアウアーが開演を前にし て死体で発見された。死因は、コーヒーに入っていた青酸カリである。この謎にローマ 出身のパッタ警察署長の元で働くヴェニス出身のブルネッテイ副所長が挑む。
 昔、ベルアウアーは、ソプラノ歌手の13歳の妹を妊娠させ、自殺させた事があった。 今回の事件も、3番目の妻の幼い娘に手を出したことから始まった。妻は敵をとろうと、 夫にネチルマイシンという聴覚に障害を起こす薬を、ヴィタミンB12と偽って注射し た。やがて夫は聴力の障害を知り自殺・・・・。
 事件としては、あっけなくあまり推理小説向けではないかも知れない。しかし、ヴェニ ス人の生活描写、個性ある登場人物とその人間関係の描写が魅力的で、文章もユーモア にあふれているように思えた。

・だが、去年の成績が振るわず、最近進学しないと言い出した。なぜなら「教育もまた 労働者抑圧体制の一部に過ぎない」からだ。進学しないとして、仕事を見つける気があ るのかというと、それは単に「労働者抑圧の腐敗した体制を永続させること」にすぎな い。よって、抑圧するのを避けるために教育を受けることを拒否し、抑圧されることを 避けるための仕事をすることも拒否するのだ、と。ブルネッテイはよくもそこまで単純 になれるものだとしょっちゅう感心していた。(209P)
・「ネチルマイシン。イタリアではネチルシミーナの名前で売られているはずです。・・ ・・」(268P)

r991003