死者は訴えない        土屋 隆夫 

光文社文庫


この短編集にはいわゆる冤罪物を集めている。プロットは比較的似ている
判事よ自らを裁け
金貸し岩月千秋殺人の件で逮捕された恵泉幼稚園園長でキリスト教徒の高松信也は犯行を否認した物の、その時刻におけるアリバイの供述を頑強に否定した。状況証拠が揃っていたために戸狩判事は死刑を言い渡し、高松は獄死する。しかしその後、死の床にあった売春婦の告白で高松は彼女に強制されて恥ずべき行為を犯行時刻にしていたことが分かった。無実を叫んだ高松の娘が戸狩を誤って他人を殺した。良心に恥じた戸狩は定年を待たずに辞職することとなった。

死者は訴えない
もぐりの高利貸し藤崎洋之助殺害事件で、犯行時刻現場で大型ナイフを持ってぼんやりしていた学生鈴木正一が逮捕された。鈴木は訪問したとき、彼は殺されていたと主張するが、アリバイが不明なため、城川裁判長は死刑を宣告し、被告は絞首刑に処せられた。その後、鈴木が共産党員で秘密の会合に出席していたため、アリバイを主張できなかったこと、城川の息子の道夫が自殺し、遺書に彼が藤崎を殺したと書いたことから真相が明らかになった。城川は自己に対する判決文をしたため自殺する。

奇妙な再会
人気番組「奇妙な再会」での、大賀高等裁判所所長と謎の歌手甲斐エリ子の面談は「私の父はあなたに死刑を宣告され、死んだ。父は無罪だ。」というエリ子の主張が前面にでた形で終わった。その事件は13年前、長野県でおきた教員sが借金をしていた元同僚を刺殺した事件。sはあったときには殺されていたと主張したが状況証拠が悪すぎた。放映後、番組担当者の泉は日本橋近くで老人に大賀の家を訪ねられ、ニコライ堂近くの家を教える。翌日老人がニコライ堂前で死んでいた。酔い覚めて、小さな事実をつなぎ合わせると・・・・あの老人こそ犯人だ、彼は大賀を訪ねたに違いない。発覚を恐れた大賀は・・・・。

縄の証言
幸田健輔は金貸し業安中太一郎殺しで逮捕された。彼は娘の由紀とテレビを見ていたと主張したが、犯行現場から立ち去る彼を江本俊一なる学生が目撃していたために新藤勝人は有罪とし、死刑を判決した。幸田は獄死した。その後娘の由紀が新藤の家に押し掛け、さらには近所にも訴えるが無視する。しかし、新藤は誤審のの事実を発見する。その後引退した新藤は軽井沢でのんびりしていたがふとした機会に由紀に「屋敷内で暴行された。」と騒がれ、あわてる。しかし証人も現れて、彼はついに行き方知れずになる。松本清張の「霧の旗」を思わせる小編である。
愛する
二人の自殺志願者が崖の上で鉢合わせした。話し合っているうちに男は娘の失跡した父になりすまし人生をやり直そうと考えた。しかし娘は母を絶対として育てられてきた。父が現れ、過去を覆されることはたまらなくいやだった。こうして自殺しようとした男を自殺しようとした娘が殺すという事件が起こった。

美の犯罪
死の一歩手前の母は娘の香代に、娘がたった一度の不義によって出来た事を告白しようとした。しかし母を神格化して育った香代には耐えられないことだった。必死になって母を抑えるうち母は絶命した。香代は母に死化粧を施した。