背いて故郷          志水 辰夫

講談社文庫

 柏木斉は、日ソ海域で操業する漁船を指導する第六協洋丸船長だったが、スパイ的活動目的で自衛隊員が乗り込むようになったのを機会に、後任を友人の成瀬にたくし下船する。成瀬とは子供の頃からの知り合いで、妹の早紀子とも仲がよかった。ところが別の航海を終えて帰ってみると、その成瀬が、夜間船内で写真を現像中に絞殺されたという。成瀬は何者かに都合の悪い写真を撮り、そのフィルムをねらっての犯行に違いない。柏木は自責の念に駆られ、真実を独力で見つけだそうと決心する。
 成瀬の妻慶子の援助を得ながら、成瀬の死とともに船をおりた4人の元船員を追う内、菅沼が替え玉であったことに気づき、長浦埠頭で元船員の一人牛島とともに対決すると約束した。しかし夜半、何者か二人組におそわれ、ようよう逃げ出すが、牛島は自動車内で焼き殺されてしまった。ところが同じ頃、菅沼も殺されていた。菅沼は実は政府側が回した物で、ある注意人物を追っていた。それが発覚して敵方に消されたのだった。
 牛島の骨を故郷に埋めてやろうと北海道の廃坑の村に赴くと、あの長浦海岸でおそってきた二人が再び現れ、対決。これも九死に一生を得て逃げ出す。ここの記述はなかなか迫力がある。
 ようやく同じく元船員の西元から、例のフィルムを成瀬の墓の元に埋めたことを聞き出し、米沢近くの彼の実家・・・・。そしてフィルムを巡って最後の対決。相手を倒したものの、菅沼が追っていた注意人物の手先として動いてい者が、慶子と、死んだはずの牛島と確認し、唖然とする・・。

 短い、時には切り離しのセンテンスをならべ、旅の雰囲気と登場人物の心の動きを記述する筆力は大した者である。これが志水節というのだろうか、気障だが、読んでいて楽しい。 ただ、事件の動機付け、真の原因追究といったところが、納得が行きにくく感じられた。

・椙尾神社の参道にあかあかと光りが連なっていた。。繰り出してきた人影が見える。華やいだ雰囲気と言葉。初詣の人々が鳥居をくぐって本殿へ向かおうとしている。柔らかく吐き出されている白い呼吸。笑顔、挨拶、雪の新年。(425p)
・夜行列車の音が聞こえた。街の光りがほの白く空へ照射している。漂って鐘の音。凍てついて冬の道。冷たい、どこまでも冷たい雪の肌。夜の残影。(426p)

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