創元推理文庫 日本探偵小説全集3
資産1000万はあると言われる高木家の当主孝平が、ベッドの中で射殺死体となって見つかった。警視庁捜査一課の加賀美が捜査に当たる。凶器のピストルは、裏の草むらで見つかった。最初にピストルに指紋のついていたお手伝いの友子が「私が殺した」と主張するが、恋人の息子吾郎をかばったものだった。
孝平はいわゆる暴君で、為に妻は8年前にピストル自殺を遂げていた。その後も、一家のものをいじめ抜き、最近では死後すべての財産を、動物愛護協会に寄附するよう書き換えようとさえしていた。容疑者は孝平の妹で冷遇されている青島勝枝、ひどく吝嗇で小心な大沢為三、息子の高木吾郎、孝平の甥で探偵気取り、しばしば警官を愚弄して喜ぶ丹羽登の4人だが、全員が孝平を殺す動機を持ちながら、アリバイがあった。
吾郎犯人説など乱れ飛ぶ中、全員アリバイに注目した加賀美は、孝平の死んだベッドに実際に寝てみて、壁に機械トリックによる殺人装置を発見する。飾り時計の分銅にとりつけられた導線が時間と共に降下し、その先端が壁から突き出している真鍮にさわると、電気が通じ、戸棚の中にセットしてあるモーターが自動的にまわり、拳銃の引き金を引くというもの。分銅をひけばセットできるのだから、犯行現場にいる必要はない。分銅設定時間を考慮し、1時から3時にアリバイがあるかどうかを当たり始める。
ところがこの装置が製作されたのは8年も前で、製作者は孝平自身と判明した。つまり孝平は、妻を自殺に見せ掛けて殺していたらしい。さらに加賀美は、事件直後としばらく経ってからのベッドの写真を見比べ、ベッドがずれていることを発見した。孝平が事故に遭わなかったのは、いつも的からベッドをずらしていたからだ。それでも殺されたのは、逆に犯人がこの装置の存在に気がつき、犯行直前に拳銃を取り外し、直接撃ったからと結論する。するとアリバイがあるとはいえ、一番現場ちかくにいた者は・・・。
冒頭の孝平が喫茶店で懐から取り出した蜘蛛を飲み物にいれて、店に文句をいい、ついでに隣の席の加賀美に「今3時ですね?」と質問、アリバイ作りをする場面は傑作。ごく短期間で書きあげた作品とのことだが、トリックが新鮮で、物語が自然、登場人物の個性がよく描かれているなど、作者の技術のさえを感じさせる作品である。(1947.5 41)
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