角川文庫
日本的な推理小説のお手本の様な作品、だと思った。代表的なトリックが縦横に駆使され、文学性も高く、歌による味付けまで加えられている。
遺書らしい「天国は遠すぎる」という流行の歌を残して、洋裁学校生徒砂上彩子の、青酸カリ服毒による死体が発見された。自殺と考えられたが、直前のボタンの購入、布団の敷き方に疑問をもった久野刑事は他殺ではないかと考える。そのうちに汚職問題が取りざたされる中、渦中の県土木課長深見が失踪した。
久野は、彩子の残したマッチ箱裏のメモが旅館の電話番号であることにきずく。(暗号トリック)捜査をすると、彩子と深見が一緒に泊まっていたことが分かる。しかも偽名から彩子が下宿している富久屋旅館の尾台夫婦が怪しくなる。夫婦は旅館を妻が経営し、夫は渦中の土木業者の社長だった。やがて深見の死体が河原で発見される。尾台が深見にとりいろうと彩子を抱かせたが、事件が発覚しそうになって二人を消した、と考えられたが、尾台にはアリバイがあった。
後半はこのアリバイ崩しがポイント。ストリップ小屋見物と称していたが、途中で変装した妻と交代して抜け出す。彩子に「歌詞を教えて」と流行歌を書かせ、青酸入りのコーヒーを飲ませて殺す。(入れ替えトリック、遺書のトリック)
深見殺しは身に危険が迫ったと知らせ、深見に東京に行くと見せかけて花見の席に呼び出す。突然襲って殺し、自動車の中に隠す。後に河原に放置し、そこで殺人が行われたように見せかける。(犯行現場偽装トリック)
そして謎解きはJR入場券で可能ではと読者に思わせた後、マッチ棒に残った指紋が決め手とする。最後に逮捕された尾台夫婦の自殺に伴うトリックまで見せて読者を飽きさせない。派手さはないが非常に面白い作品である。
・ここで、入札予定価格のスパイ戦術として「抱かせる」、「飲ませる」、「握らせる」という、いわゆる「三セル」作戦が登場する(132P)
・金、女、酒。この三つは、いかなる関門をも突破する。(234P)
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