天狗の面           土屋 隆夫

光文社文庫


 信州の寒村牛伏村で、おりんという30の女性が始めた天狗信仰が急速に広がった。おりから村では次期村会議員の座を巡って、池内市助と小木勝次が争っていた。天狗講の晩、信者の市助がお茶を飲んで腹痛を訴え、治療にと天狗様の万病に効く水とやらを飲んだところ、死んでしまった。農薬のパラチオンの作用によるものだった。
 お茶はみんなが飲んでいる、茶碗も勝手に取った、もちろん湯飲みを用意した雪子は犯行を否定する・・・・一見市助の死は不可能犯罪に見えた。
 さらにこの事件が解決せぬうちに、入信の儀式があり、強い北風が吹いた翌朝、勝次と戦争中特高に引っ張られて頭のおかしくなった山森が、大銀杏の下で殺されているのが見つかった。一時は市助の弟伍郎が犯人かとも考えられたがアリバイが成立した。
 解決できぬ大事件の連続で、純朴な土田巡査は頭を抱えるが、昔の知り合いで今は東京で刑事弁護士をやっている白上矢太郎が助けに来る。 白上は前者については毒はお茶ではなく、天狗の水にはいっていたとする。
 後者のうち、勝次について
(1)天狗の面がきちんと置いてあったこと、被害者のポケットにあったピースがつぶれていた事に目をつけ、死後現場に運ばれた、と結論づける。
(2)祭りのおり、お堂の外は太鼓が鳴り響き、篝火で明るく、中は暗かった上、中の教祖や勝次は面を着けていた。
などからすべておりんの犯行と断定する。山森は事件の隠蔽をはかるために殺されたにすぎない。

 解説で新保博久氏が「戯作的で特異な文体」としているが、その通りで他の土屋作品と異なってのんびり農村風の味の出た文体で書かれており、読んでいて楽しい。ミステリーの論理構築はしっかりしている。おりんが最後に自殺して事件は解決するのだが、動機についてはおりんが妊娠3ヶ月であったことを指摘するにとどめている。この点と、謎解きの過程が弱いところが不満と言えば不満。

・毒殺トリックについての解説 心理的トリック、機械的トリック、誤断的トリック、その他のトリック(100p前後)
・映画においてはだね、私小説的な発想など三文の価値もない。(223p)
・ローソクを事件に合わせて消すトリック・・・短い芯のものを利用(239p)

r991206