文春文庫
生命保険会社内の権力闘争と保険金支払いをめぐるトラブルをかかえる顧客のうらみが絡んだ殺人劇である。
国民生命保険では濠会長派と石黒社長派が主権を握ろうと次回の株主総会を控えて争い、濠会長は密かに株の買い占め作戦を開始した。
板谷増子は夫をなくして以来、病気の娘とおじいちゃんを抱えて苦しい生活を送っていた。
おじいちゃんは、近くのおばちゃん外務員鈴木伸江の勧誘で1000万円のガン保険に入っており「わしが死んでもこれでなんとかなる。」と言っていた。そして本当にそのおじいちゃんが死んだ。しかしおじいちゃんが、前に病院にかかったことが報告されていなかったため、告知義務違反で保険金が支払われない。増子は伸江をなじり、濠派の矢田支店長に抗議し、さらには社長宅まであらわれるがどうにもならない。
そんな折り、支店長に融資の相談に行った中小企業の社長野見山が、矢田と分かれてすぐにおそわれ、それが元で凍死した。そしてしばらくして矢田がおそわれた。野見山の会社に保険金9000万円を払うべきか否かを決定するために、社長秘書珠生を恋人に持つ城木が調査に乗りだす。彼は、鈴木伸江が絶えず誰かにつけられているなどの情報をもとに、当初すべて板谷増子の犯行と考えた。
しかし、株主総会近くになって、濠会長が会長室で鈍器で殴られて殺され、そして会社には東西コンツエルンによる買収のうわさが持ち上がった。
野見山殺しは単純な矢田との誤認殺人だが、濠会長殺しには裏があった。濠会長の命を受けた犯人は、株の買い占めに走っていたが、途中で自分が主役になりたいと考えた。犯行を板谷増子、あるいは石黒社長に着せながら、濠会長を消し、会社を東西コンツエルンに売って自分が主役になろうとしたのだった。
生命保険に入る前に是非読んでみたい推理小説。それほどに業界の内幕話が調べられている。株買い占めについての記述も面白い。ただしストーリーとしてはかなり無理があるように思えた。板谷増子がいくら怒ったとはいえ、ターゲットにするのはまず鈴木伸江ではなかったか。またいくら欲が出たとはいえ、恩義を受けた会長を、直接の部下が殺すというのは不自然ではないかという気がする。
・長女の紀子が腎炎から真性ネフローゼ(20p)
・会社は外務員を「外野」と呼び・・・・(24p)
・全体の65%をしめる他社の持ち合い株と、元社員らが所有している7%の株式の投票権は、通常白紙委任状として株式課あてに送られてくる。従って、会社の執行部に対立のある場合には、事実上残り約28%の社内持ち株の過半数を制した側が・・・(64p)
・外務員たちの競争心を刺激し、手ぶらでは帰れないような決意をあおって・・・「女に火をつけろ。!」(133p)
・ターン・オーバー、外務員使い捨て方式(136p)
・無三権と言われて、契約締結権、保険料受領権、告知受領権などが認められていない。
・・・外務員に事実を告げたのに、外務員がそれを会社に隠して契約を成立させてしまった場合、後でトラブルが生じた時、
加入者が外務員に事実を告げたとして主張しても、それは正式に会社に告知したと見なされなかった。(139p)
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