講談社文庫
白蟹村は長い屏風岩に囲まれた東北のへんぴな漁村で、いつの世も権力に反抗し周囲から隔絶されて生きている。
海岸から沖に向かって洲がのびており、その先に神社のある島があるのだが、洲は大潮になると突然大波に襲われ、短い時間のうちに海底に没してしまう。
洲の周囲は浮き砂でおおおわれ、落ち込んだら最後あがってくることはまずない。
その辺鄙な海岸で、車が引き上げられたが、中には東京の双生児の学生、下屋敷兄弟が乗っていた。別の学生、船渡の捜索依頼をが出された。
同じ年齢で、同じ東北出身、いずれも司法試験を目指し、同じ怪しげな喫茶店に通っていた。高館刑事は二つの事件が関連していると考え、白蟹村を調査しようとするが、村民の口は堅く、妨害も多く、何度か危険な目に遭う。そんなおり、村の海女、水江と海江がよく救ってくれた。
船渡のドイツ語まじりの日記から、ノブなる女性がうかび、各所に出したアンケートからノブの特色がわかる。
祭りの夜、ついに高館はノブが水江であることをつかむ。彼女は、司法試験を受ける身でありながら、色に狂った下屋敷等に妹が殺されたことをうらみ、大潮の時彼らを洲に導き、敵をとったものだった。
しかし高館が彼女を伴って、署に向かう途中、地鳴りがおこり、おどろくほど高い波がおそってきた。新月の翌暁の大潮、オビが開いたのである。
作者は追いつめられた蝦夷民族の村の存在を仮定している。しかし作者はその社会のもつ独特の風習を見事に描き出し、「本当にこんなところがあるだろうか。」と疑わせながら、筆力で読者を納得させている。
また高館が「実直でまじめ」に捜索し、真実を発見するが、ついに事故死して、もっと大きな真実は闇の中に埋もれてしまうという書き方も特色がある。
・潮が毎日、その前日より五十分ずつ遅れて満ちたり退いたりすることは、子供向きの百科事典にもでている。
そこにある説明によれば、太陽と月が地球に作用する引力と、その距離の差のせいで、潮汐は複雑きわまる運動をするのであった。
それは各地の海岸の地形によって、同じ国や地方でも、大差がある。 アメリカのファンデイ湾は概要に向いて扇形に開いているために、大潮でなくても日に二回、数メートルもの高潮が、泡の壁のように押し寄せる。
フランスのセーヌ河、中国の銭塘江などの河口でも、同じ現象が起き、その潮の早さはまさに走る馬そのままだ。(176p)