角川書店ハードカバー
長いセンテンスの醸し出す独特の古めかしい雰囲気に、魅力のある作品である。各章の
タイトルが極月、睦月など月の名前になっている点も、趣向が凝らされている。
深井慶による「魔物たちの夜」出版記念パーテイが開かれ、佐伯監督による映画化の話
しが紹介される。しかし、そこに深紅の薔薇に包まれたナイフと慶のファンの一人と思
われる糸越魁のイニシアルの入った脅迫状が、贈られてくる。
その後、映画化のために慶は、主役で私の従姉妹小磯千秋、佐伯監督、私(根岸亮)等
と渡欧するが、父の太一がロンドンダンジョンで殺される。
一行はいったんは帰国するが、千秋の絵画が国際的コンクールで入賞し、その受賞をか
ねて、再度渡航する。しかし、慶はロンドン塔で糸越に斬りつけられ、最後にブリュー
ジュで何者かの投げた石が、目に当たり失明する。
帰国後、慶は一線からしりぞき、主役も筋書きも変更になり、大衆受けを狙った映画が
作られるが、慶と間違ってバーテンが殺され、慶自身もついに自殺を装って殺される。
そして私が、糸越魁と小磯千秋のアナグラムを発見したころから事件が解明される。ス
タートはファンにことよせて送った千秋の作品「魔物たちの夜」を、深井慶がそっくり
盗用したところから始まった。千秋が最初の小細工をし、千秋の日記を盗み見て真実を
知った弟の昇が、太一を慶と間違えて暗殺、映画製作の過程で真実に気づき、自分の猫
を殺されおかげで妻にも先立たれた佐伯監督が、バーテンと慶を殺した。
・パリのノートルダム寺院ほどもあるだろうか、山のような巨大な建物全体から陽炎の
ように邪悪な空気がゆらゆらと立ち上っているような気がする。昼間だというのに僕は
ぞくぞくっとした悪寒が体中に広がるのを感じた。・・・石造りのどっしりとした建物
は昼の日差しの中で深閑と息を潜めている・・・・まるで虐殺された屍のようだ。(1
36p)
・それからもう、街をうろつくのは止して、あの部屋に通うようになったの。行く度に
私はいろんな人になったわ。あの部屋に住むOL、苦学生、あるいは逃亡中の犯罪者、
男になったり、女になったり・・・そうしている内に糸越魁という名前を見つけたの。
私の名前から生まれた青年、糸越魁!(250p)