東都書房横溝正史集
話はかなり複雑だが、主要な部分だけ述べると次のようになる。 「原歌劇団」の蝶々夫人大阪開演の初日、マネージャ土屋のもとに届いたのは、コントラバスケースに入れられたプリマドンナの原さくらの死体。同時に彼女の所持していた高価な真珠の首飾りがなくなっていた。犯行は前の日の晩、夜の9時と11時の間に行われたらしい。
東京を一緒にたった相原の話によると、彼女は東京駅で乗車する際、一枚の紙片を落としたが、それには楽譜を使った暗号で「危険だから品川で下車せよ。」と書かれてあった。彼女は愛宕下の隠れ家、清風荘に行ったはずだ。由利先生が曙荘と清風荘を調べると、わずかな砂が見つかり、何か重いトランクが送られたらしい形跡。彼女は清風荘で殺され、トランクにつめられ、大阪に送られたのだろうか。
そしてホテルの5階から、重要な事実を知っているらしい若い助手雨宮の転落死する。マネージャーの土屋が階下にいて目撃していた。
由利先生が一同を集めて謎を解いて見せる。
原は常日頃、「人生は遊技にすぎない。」と考え、みんなをあっといわせたいと思っていた。そこを犯人にそそのかされて、清風荘に行き、すぐ弟子の相原千恵子と入れ替わり、男装して大阪に行き、曙荘におちついた。
相原千恵子が「椿姫」の男役アルフレッド・ジュルモンに扮して成功したことをうらやましく思い、普段から男装の練習をしていたというから無理はなかった。
しかし曙荘で彼女は、待ちかまえていた犯人に殺され、コントラバスのケースに詰められた。犯人は、さらにトロンボーンの筒に隠した真珠の首飾りを指揮棒に入れ替えようとしていたところを、雨宮に目撃され、殺すこととなった。
雨宮殺しの手口は、雨宮を5階で殺し、死体をマントにくるんで綱で緩く縛った後、ぶらさげて幾重にも回し、自分は階下に飛んでいった。やがて綱がゆるみ死体が落下し、目撃者になった。
トリックが非常におもしろい。加えて「椿姫」「蝶々夫人」等からの話題が多くそちらからも楽しめる作品になっている。犯行の動機を、昔は一流だったが、今は原さくらにつかえなければならない鬱屈した心理に帰している点、やや無理があるような気もする。
なお、畦上道雄は、原さくらがお芝居の筋書きを土屋から教えられることなく、自分の役を演じているのはきわめて不自然としている。また坂口安吾は、土屋の雨宮殺しにおける行動は心理的にはありえない、としているそうだ。
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