雨月荘殺人事件        和久 峻三

中公文庫

 裁判記録ファイルそのものを、元裁判官が講師を務める「市民セミナー」の講義にそって読み進めるという、日本の推理小説では例を見ない形式で書かれている。そのため、読者は実際に裁判を傍聴し、参加しているような気分になり、非常に勉強になる。
 2冊ずりで公判調書には起訴状、公判調書、証拠等関係カード、実況検分調書、証人尋問調書、逮捕状、弁解録取書、勾留状、供述調書、解剖結果報告書、鑑定書、被告人供述調書等、必要な書類がすべて収められ、しかも最後のどんでん返し部分は袋とじになっている。
 信州の高級旅館雨月荘、旅館のオーナーで美貌の資産家月ヶ瀬都子が夜半謎の首吊り自殺を遂げた。場所は3階の剥製標本室前、普段人の出入りのないところだ。夫であるものの、財産がなく、妻の尻に敷かれていた月ヶ瀬紀夫が逮捕され、20日間の拘留の終わりになったころ自供したため告訴された。証拠は床の絨毯の押さえ金具についた唯一の紀夫の指紋、現場に行った足跡が都子のものしかなかったため疑問が持たれたが、自室で都子を殺害した犯人が被害者の足袋を履いて現場に行き、絨毯をめくって偽装工作をしたものと警察は断定した。
 公判過程で被害者の経営する会社が倒産寸前だったこと、被害者も被疑者も従業員たちから嫌われ、殺人動機を持ったものが多数存在すること等が明らかになる。結局判決は証拠不十分で無罪となる。
 通常の裁判はここで終わりだろうが、小説であるからここから落ちがある。指紋は複製を作ることが出来た。死体をつるした後、犯人は剥製標本室をぬけて反対側の普段使わないドアから抜け出すのだが、足跡を掃除機であつめた塵を播くことによって消した。

* 実際の裁判の記録
* 指紋の複製
* 足跡を消す

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