ヴィオロンのため息の      五十嵐 均

角川書店ハードカバー

 昭和19年、第二次世界大戦で枢軸側が苦況に立たされた頃、軽井沢の高級別荘で伏見 莞二の娘敦子は、ピアノを教えていたドイツ陸軍少佐ハンス・ツバイクに恋をする。ロ シアGPUはナチスドイツに勝った勢いで、欧州全域を支配しようと考える。それには 米軍の欧州上陸を失敗に終わらせなければならない。そこで上陸のDデイと場所をヒト ラーにツバイク経由で知らせようと考え、敦子のピアノレッスンにスパイのビクトル・グレチコ を送り込む。
 一方今回の大戦を母国の敗戦と考えたツバイクは、グレチコから得た情報を握りつぶそ うとする。そのためにグレチコを殺し、建造中の忠魂碑の土台の下に埋める。
 それから50年、軽井沢のホテルで今は現職法務大臣の妻となった敦子は、ツバイクと 再会し、情事を楽しむ。しかし50年前グレチコ行方不明事件を追い、志半ばにして倒 れた金田刑事の息子風間耕二がツバイクのちょっとした事故に興味を示し、事件を再び 追跡し、ついに忠魂碑の土台を掘り返し、グレチコの骨を発見する。敦子は外国にいて 時効の成立していないツバイクを出国させる。・・・・

 スパイ小説にからめた壮大な恋愛小説と呼ぶべきものと思う。作者のあとがきの「この 小説が中年を過ぎた方々をインカレッジし、若い読者にさらなる夢を贈る事が出来れば、 私の執筆目的は半ば達せられた事になります。」に作品の意図が感じられる。

・日本人ならともかく、この非常時に露助の一人くらい、やってられるか。(156p)
・父が言っていたことを思い出すわ。共産主義は出現するのが少し早すぎたんだ、とい うんです。成熟した経済基盤があって、専制に移行しない政治的な仕組みが出来れば、 武力を使わなくても世界中に浸透して行くかも知れないって・・・。(235p)
・先進国と言われる国でキリスト教がマイナーなのは、考えてみると日本だけですもの ね(258p)
・犯人が国外にいる場合、時効は国外にいる期間その進行を停止する(276p)
・長期間経過した死体からの推定(286p)
・警察権や裁判権を免除される外交官特権は、1964年に発効したウイーン条約に依 るものです。それ以前は国際慣習だったに過ぎません(290p)

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