創元推理文庫
新任の安田司法主任のもとに「変死事件」が持ち込まれた。前夜はなれの一室で、寒いのでストーブをがんがんつけて画業にはげんでいた木村兼雄が画布を前にして死んでいた。彼は二年前に主人の鍛造氏が無くなってから母と頭の少将弱い従姉妹とともに暮らしていた。兼雄が描いていた絵はどうも木村りみ子という女性らしい。彼女は東京に住む木村久芳氏の娘で、女学生時代そのはなれに住んだが、兼雄と関係して子を宿し、大磯に転居させられたという。また前にも同じ様な絵を描いたが富田銀二なる男が引き取ったと言う。
私は安田氏を訪ねて、木村りみ子がかって精神分析の専門家大心池教授のもとに相談にきたことを思い出した。彼女は女学生時代に木村里美子というよく似た名の女学生に近づき、やがて同性愛関係に落ちた。ところが里美子は富田銀二と言う男と関係する。私たちの関係を裏切ったと大喧嘩になった。しかしりみ子も妊娠し、おあいこだが両親の問いつめるところとなった。彼女は思い当たることがなかったが、良く知っている木村兼雄の子と偽った。しかし、実際は富田銀二が原因だった。この辺のところが大心地教授の精神分析を通じて次第に明らかになって行くところが圧巻。その後木村里美子のほうが富田銀二と結婚した。銀二はひどく子供をほしがった。そしてりみ子の赤ん坊が失踪した!
毒物分析の結果、被害者はなんと一酸化炭素中毒ではなく、青酸ガス中毒により死亡したものだと言う。青酸=シアン化水素酸は水、油、エーテルにとけ沸点26.5度。絵の具の中にこれが混ぜてあった。部屋の温度が高かったので、徐々に蒸発してきたのだ。そう言えば時と共に絵が白っぽくなってきていた。木村兼雄は秘密を知って銀二を強請っていたのではないか。(r991023)
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