Wの悲劇     夏樹 静子

角川文庫

 正月、和辻財閥の山中湖別荘には和辻与兵衛会長他一族郎党が集まっていた。娘の女子大生摩子の家庭教師、春生も招待された。夜半、悲鳴が聞こえ、摩子が「会長から言い寄られ、刺してしまった。」と飛び出してきた。部屋では会長が刺殺されていた。
 一族は善後策を協議した結果、摩子をいったん東京に帰し、強盗による外部犯行に見せかけようする。マカロニグラタンを取り寄せ、一緒に来ていた外科医間崎が会長の胃に胃ゾンデチューブで押し込む、犯行時刻を狂わせるために、一時期死体を雪降る外に出しておく、株券等を入れた書類鞄を取り去る、電話線を切断する、雪の上に強盗らしき足跡を付ける等である。やがて朝、通報によって警察が捜査にやってくる。
 当然当初中里刑事課長等、警察陣は外部犯行と考える。しかし、靴の足跡が行きと帰りが逆になっている。足跡の靴や胃ゾンデチューブが発見される。東京に戻った摩子が、夜陰に風呂敷包みを持って外出している。摩子が異常におびえ、手にはなにやら傷をした跡がある。
 警察の内部の者による犯行と考えはじめ、それは摩子の犯行説に変わって行き、逮捕される。しかしどうしてこんなに簡単に証拠がでてくるのだろうか。警察に内部の犯行を知らせようした者がいるに違いない。
 中里刑事課長と春生の推理がはじまる。 摩子は黙秘を続けている。彼女は誰かをかばっているのではないか。そうとすれば、摩子が犯罪を引き受けざるを得ないほど愛している者はだれか。摩子をかばっても相続権を失わない者は誰か。(民法891条)誰が会長と対立していたか。それらを考えあわせると、摩子の最愛の母俊江と遺伝子工学研究所建設を巡って会長と対立する亭主の道彦が浮かび上がってきた。

 「Yの悲劇」を強く意識しているように見られること、最初から劇化されることを想定して作られている点が特色である。夏樹静子の作品は、探偵役が作品毎に変わっており、一定していない。この場合も主人公の春生と中里刑事課長等だが、時により使い分け、はっきりした線をだしていない。 その分、プロットや物語で見せる傾向があるようだ。この作品では、犯罪を隠蔽する側からストーリーを構成している点が何と行っても特色がある。凶器が果物ナイフであったり、床についたはずの会長が寝間着を着ていなかったり・・・この辺の失敗がほほえみをさそう。

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