夜の蝉            北村 薫

創元推理文庫

空飛ぶ馬」に続いて作者が放った二十歳の学生の私と円紫師匠のごくみじかに起こったちょっと不思議な事件を解く推理探偵シリーズ。殺人事件は起こらないがいづれも一ひねり利いていて楽しい。

朧夜の底
ある時書店の国文学コーナーに置いてある本が何冊か上下逆さまになっていることに気がついた。円紫さんと調べると6500円もする「室町時代の小説の研究」の箱には「中世歌謡の方法」という別の本と売り上げスリップが入っていた。値段は後者も6500円。円紫さんの答えは、上下逆さまは予備行動、高い本だから買うには買うが気に入らなかったら返したい、そこで箱を買えておけば後から簡単に返本することができる・・・。

六月の花嫁
私は江美が軽井沢の峰ゆかりの別荘に男性の葛西、吉村と共に行くので来ないかと誘われ参加する。このうち峰と葛西はできているという。江美と吉村が二階でチェスをしたという翌日一階でチェスをやろうと駒を取り出すとクイーンが無い。探すとそれが冷蔵庫の卵のケースの中、ところが卵が一つなくなっていた。それを探すとお風呂場の手鏡のあったところ、その手鏡はチェスの箱の中に隠されていた・・・・。どうしてこんな事が起こったのか。実は江美と吉村は二階でチェスをやると称して、いいことをしていた。翌日クイーンがないと分かって、チェスをしていなかった事がばれそう、机の下に転がっていたクイーン見つけた江美が冷蔵庫にあわてて隠した。今度は卵をどこへ隠そう・・・。
・これをなんと読む
八万三千八三六九三三四七一八二四五十三二四六百四億四六
答え 山道は寒く寂しな一つ家に夜毎身に染む百夜置く霜(150p)

夜の蝉
恋人三木に冷たくされた姉が、仲を修復しようと歌舞伎の切符を封にいれ て送った。ところが当日会場に行ってみると席には恋敵沢井嬢がちゃっかり座っている。 沢井嬢は三木から送られたと言うが三木は送った覚えはないという。実は姉がそっとこ の話しを打ち明けた女性が郵便屋に頼んで封書を回収し、宛名と送り主名を変えて再投 函したというもの。
・(ポストに入れた手紙を取り返す)
郵便局に行き、投函した場所、郵便物の形状を申告して、それから確かに自分が差出人 である事の証明が出来ればいいんです。(239p)
・うん、それで何だっけ。夫婦か。これは面白いね、同じ仕事をしていて片方がより評 価されたらどうかだ。妻は夫に嫉妬するだろうか。(245p)

「昔はじめてこの本を読んだ時の感想」
日本推理作家協会賞受賞作品と言うので買ってみたが、読み終わって「これも推理小説 と呼ぶのか。」と唖然。殺人のような無粋な行為とはなく、小説らしい部分は日常の生 活に中にある些細な行為や状況一つ一つの中に潜んでいるとでも言いたげだ。もっとも これも作者は推理小説を書こうと思ったのではない、推理作家協会が勝手に推理小説の ジャンルに入れて賞を与えたのだと言うのなら、話しは別になるが・・・。
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