ケイブンシャ文庫
あくどい商法で成り上がったアルプス食品社長淡路剛三の屋敷の周囲を、白装束を着たその怨霊らしき快遍路が徘徊し、郵便受けの中に何かを入れていった。開けてみるとミイラ化した人間の指。そして幽海上人を名乗る男から怪電話がかかってきた。
この謎に、名前に似合わず大食漢でクイズ狂の滝連太郎が挑む。
一方で幽海上人は、昔山形県出羽三山の一つ湯殿山で厳しい修行の後、土中入定をはたした尊い人となっているが、本当は修行を途中であきらめようとし、周りの者から撲殺されたのではないか。その調査が滝の大学の手で進められようとしている。
関係者の堅い口から徐々にいやがらせの真相が漏れてきた。淡路家は、湯殿山近くの大師村出身。村は、代々淡路家、伏見家などが、ご三家として勢力を張っていた。終戦直後食糧危機の時代に、津島母娘が村に流れ着いた。ところが彼らの父が脱走兵と分かると、ご三家を中心に村人たちは、食料の販売を禁じるなど迫害し、自殺に追いやった。その復讐ではないか。
そうしたおり、淡路剛三が密閉された風呂場で、睡眠薬を飲まされた上、撲殺される。凶器はなんと三鈷杵と推定された。
犯人は、ひょっとしたら死んだ娘の兄で、その後ヤクザになった津島勘治ではないか。彼は一度村に戻ったが、にべもなく追い出されている。尋ね当てると、既に更正していて焼鳥屋を経営していた。しかし剛三の娘として育てられている能理子も、兄の道海僧正の子として育てられている信也も、伏見の子の武も、実は勢力絶倫の勘治の子であることが判明した。ある意味で津島は、自分の子をご三家に育てさせることによって復讐していたのだ。
そして発掘調査を始めるための儀式を行う当日、それまで断食潔斎していた道海上人があらわれない。やがて彼は、古井戸で餓死しているのが発見された。
ご三家の中で剛三等に騙されて落ちぶれた伏見欣作、その友人の筧老人、能理子が宝くじを当てたことなどから、滝は次第に事件の真相に迫って行く。
実は能理子と信也は、伏見欣作から出生の秘密と終戦直後の事件をしらされた。純粋な彼らはそれぞれの父を許せないと考え、殺人を計画。彼らは筧老人を雇い、お遍路として出没させる一方、二つの殺人を実行に移したのだった。密室の犯行は、子供で体が小さかった故に、自分の部屋から木を伝って下り、明かり取りから潜り込んだものだった。
しかも彼らは十三歳と十二歳。「14歳ニ満タザル者ノ行為ハ之ヲ罰セズ・・・」という刑法41条を意識し、時効になった30年以上も前の犯罪的行為の復讐をとげたのだった。しかし、最後に欣作の子武と共に壮絶な事故を起こし・・・・。
湯殿山信仰に関するおどろおどろしい話が随所にちりばめられており、興味をひく。また死体の移り変わりなど、随所に良く調べられており、重厚な作品になっている。素晴らしい作品だが、一、二、気のついた点を上げると、子供の犯罪であるから仕方ない、と言えばそれまでだが、ミイラ、白装束の怪遍路、三鈷鉾など驚かせ道具が出現しすぎる感じがしないでもない。十二、三歳の子供の心理分析ももっとほしかった感じがする。全体クイーンの「Yの悲劇」の影響を感じさせる。
・消失トリックを使った作品と言えば、外国ではハーバード・ブリーンの「ワイルダー一家の失踪」、デイクソン・カーの「魔の森の家」、それにアガサ・クリステイの「木陰の道」なんかがある。そうだ、ガストン・ルルーの名作「黄色の部屋」の中にも・・・・・・・日本の作品では高木彬光の「わが一高時代の犯罪」、笹沢佐保の「突然の明日」・・・・(103p)
・自然ミイラの形成される要因(341P)
・モデルガンの利用(薬剤投入、音)(364P)
・死因は飢餓死で死後経過時間は約20時間。両眼が凹み肋間は陥没して、皮膚は弛緩し、内部臓器に著しい萎縮がみられる。肝臓、腎臓、脾蔵の重量は正常の2分の1しかない。極度の貧血を来し血液は濃厚タール状で、膀胱内の尿にアセトンやアセト酢酸が検出される。このアセトンとアセト酢酸は、脂肪の体内燃焼時に生成し、通常ならば炭水化物が燃焼する際、同時に燃焼するのだが、飢餓時には炭水化物の燃焼が少ないため、そのまま尿中に排泄されるからだ。(415p)
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