誘拐        高木彬光

光文社文庫

冒頭「かれ」は、幼児を誘拐して殺し、身代金を要求したものの、失敗し逮捕された、木村の裁判に出席する。そして「俺ならこうやる。俺なら失敗しない」と考える。
金貸し井上金融の8つになる一人息子が誘拐される。そして電話による身代金の要求。木村の時は300万円だったが今度は3000万円。
井上金融の雷蔵、妻妙子等が待っている中、受け渡し方法指示の電話のかわりにかかってきたものは妙子の情事の相手だった。井上夫婦の中に冷たいものが走る。
電話は1回だけ、金が用意できた合図を窓ガラスにテープを貼ったことによって知らせる等、犯人は木村の犯罪を参考にしたかのように用心深くしっぽをつかませない。
そして井上は日頃の拝金主義にもかかわらず、愛児と成ると夢中、ついに3000万円を警察に内緒で仲介の女にわたす。しかし、愛児はもどらない。
さらに「新聞紙の札束でからかう気か。」の犯人側からの電話。雷蔵の弟の卓二が別の3000万円入りのケースをもって指定場所に行くが犯人はあらわれない。
しかし、警察に無断で雷蔵がだした懸賞金の話を読んだ弁護士百谷泉一郎の妻のアイデアで、木村の裁判の傍聴人の一人一人に私立探偵をつけ、尾行させる。雷蔵と妻を別れさせ、愛児は殺し、相続財産の一人占めをねらった、弟卓二が逮捕の犯行がされ暴露される。
裁判、民法、刑法等をよく研究した興味のある一冊である。裁判の傍聴は推理小説作家にとって、必須の勉強なのかも知れないと思った。

・誰も引き受け手がなければ、国選弁護人が任命されるのだ。国家の費用で捕らえ、国家の権力によって検事の起訴した被告人に対し、国家の費用で弁護士を任命すると言うことは・・・・(12p)
・医者の医療器械が差し押さえの対象にならない・・・(86p)
・(嘘発見器に対して)無反応です。これは珍しい例ですが、副腎の機能が弱っているために、アドレナリンの分泌がすくなくなっているのではないかと思います。(305p)
・しかし、死体が発見されず、君が殺人を告白しなかったら、節夫君の方は、七年間行方不明のまま、法律的には生きているという事になるのだ。・・・・・もしその間に、君の兄貴が死んだとする。彼がそれまで、誰とも結婚していなければ、彼の全財産は、生きているはずの節夫君にわたるのだよ。そして、その親権を執行するのは親の方だ。離婚が成立しようがしまいが、民法上の、この原則は動かすことは出来ないのだよ。(410p)
・一部では、日本は身を殺して仁をなしたのだという見解もあるようです。日本は多くの犠牲を払い、惨憺たる敗戦に追い込まれたけれども、その目標の一つだった、東亜民族の解放は、曲がりなりにも成し遂げられたというのですね。(419p)